初めてイヴァンと犯った夜、シャワールームに消えたあいつを見送った俺は、汚れたベッドの上で恐る恐る自分の後ろに手を回した。目的地に辿り着いた俺の指先に触れたのは、ぽっかりと口を開けた自分のアヌス。なんとも言いがたいその感触は、ある意味バックバージンを失った以上の衝撃の初体験、だった。
「うーわ、マジかよ……」
二十五年間、慎ましく口をつぐんだ姿しか見たことのなかった自分のケツの穴が、今は筋肉が伸びきっちまったかのように広がりっ放しになっている。だらしなく緩んだそこから、イヴァンの馬鹿がぶちまけた精液がたらたらとシーツの上に漏れ出ていくのが分かった。それが妙に気恥ずかしくてケツの穴を締めようとするのに、どれだけ力を入れても俺のアヌスはそれ以上閉じてくれようとしない。そう分かったとたん、胸の中に不安が湧き上がってきた。
(――まさか、俺のアヌス……イヴァンのチンコの形に広がったまんま、もう元に戻んねぇんじゃねーだろうな!?)
◇ ◇ ◇
自分の中ではちょっとばかりしょっぱい思い出に分類されるような、その出来事を思い出したのは、昨夜脱ぎ散らかした靴下の残骸が目に入ったせいだ。過酷な労働のせいでゴムの緩んだその履き口が、まるで事後の俺のアヌスみたいだ――直接見たことはないから実際のところは分からねぇが、あくまでイメージの話――と思ったら、急にアナルバージンを喪失した晩の、あの途方もないような心細さが甦ってきた。
「俺も馬鹿だよなー、んなわけねーっつーのな」
新しいパンツに足を通しながら、今となってはマヌケな笑い話でしかないそれを口にした俺は、次の瞬間、背後から腰にタックルされて、膝にパンツを引っかけたままの情けない格好で顔面からベッドに突っ込んだ。
「おい、何しやがるイヴァン――って、テメエ、何おっ勃ててんだよ!?」
俺の太腿の裏に押し当てられた硬い感触のそれは、イヴァンのペニスに間違いなかった。背中に熱い息が吹きかけられる。
「ケツの穴が、お、俺の形にとか――エロいこと言ってんじゃねぇよ!」
そこか、そこに反応しちゃうのか。俺としては、本来の用途とは異なる使い方をされている俺のデリケートな部位をちょっとばかり労わってくれる気持ちになってくれたりするといいな、なんていう、十中八九叶いそうもない願いを込めていたというのに。この馬鹿ときたら鼻息交じりの上擦った声で何を言い出すのか。
「朝っぱらから誘ってんのかこの淫乱野郎が!」
「ンなわけねぇだろーが! 誤解だ、っつーかサカんな!」
多忙な俺たちは今日もこれから仕事に行かなくちゃならない。まだ時間に余裕があるとはいえ、朝から一戦交えてお疲れモードで山積みの書類に立ち向かわなきゃならないなんて、想像するだけでもごめんだ。昨夜だって三回も出したはずなのに、こいつはなんだってこう精力があり余っているんだろう。
「おい、放せよ、イヴァン!」
背中にのしかかったままのイヴァンに、首を捩じりながらそう叫ぶと、腰に回された太い腕にいっそう力が込められた。
「おまえがなんつっても、俺は抱く。嫌なら本気で抵抗しろよ」
低く軋るような声でそう囁くと、イヴァンは俺の背骨に舌を這わせながら指先で乳首を小さく抓った。
「ちょ、んッ――」
思わず口から飛び出た甘い悲鳴に、押し当てられたイヴァンのペニスがいっそう体積を増したのが分かって、俺は早々に諦めることにした。うつぶせに組み敷かれたこの体勢からではどんなに抵抗したって敵うはずないのだから、無駄に体力を浪費するよりは協力してさっさと終わらせてしまうに限る。
(どうせこいつ、早漏ちゃんだしな)
くにゃり、と身体の力を抜くと、イヴァンの口から満足そうな吐息が零れ出した。
「ジャン……」
口にしたのは俺の名前だけだけど、そのたったひと言に安堵とか好意とか欲情とか、イヴァンの俺に対する感情が満タンに詰め込まれてるのが感じられて、自然に口許が緩んでしまう。
(あーあ、俺もどーしようもねーわ)
こんな風に強引にがっつかれるのが本気で嫌なわけじゃないどころか、嬉しく思えちゃうなんて、な。