LHLのバクシー√エンド後。同居するアパートで年越しするバクジャン。

雪の降る夜に - 2/2

3,928文字 / 約5分
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決戦前夜

腕の中に抱き込んだジャンの身体から力が抜けたのが分かった。俺の首から胸にかけてを撫でていく規則正しい吐息と、さっきよりも高くなった体温。多分寝ちまってんだろうなぁ。そう思って、俺は抱えた身体がソファからずり落ちねぇように抱き直す。

ん、ぅ」

揺らされたのが気に入らなかったのか、ジャンはむずかるような声を上げた。起こしちまったか、と焦る俺の胸に金色の髪の毛が擦りつけられる。そのままもぞもぞと動かれて、くすぐったいのをじっと堪えつつ、俺はされるがままでいた。
やがて、ジャンは満足そうなため息をついて大人しくなった。きっと収まりのいい体勢を見つけたんだろう。さっきよりも一段と穏やかな寝息が顎の下から聞こえてくる。
じわり、じわり。抱きしめた身体から、体温と一緒に温かい何かが俺の中に忍び入ってくる。見下ろすと、俺に縋りつくみたいに握られている白い手が視界に映った。俺よりもひと回り以上小さなその手が、これまでにどれだけ俺を救ってくれたかをぼんやりと思い出す。

「ジャンラッキードッグ俺の、幸運の犬ッコロ」

小さな声で囁きかけると、俺の吐息で金糸がそよぐように揺れた。青空の下の麦畑を彷彿とさせるようなそれがやけに眩しく見えて、自然と目を細める。
GDを抜ける前の俺は、窮屈な世の中ってやつに死ぬほどうんざりしてた。こっから脱け出すにはこの世の中か自分自身のどっちかを壊すしかねぇのかって、そう、思ってた。だけど、こいつと一緒にいると退屈してる暇なんかありゃしねぇ。あの時の自分の選択は間違ってなかったって、改めてそう思う。
脱力して凭れかかってくるジャンの身体を抱く腕に、力を込める。起こしちまわねぇように、できるだけそぅっと。見た目よりもしっかりした骨格の手応えに、落ち着くような安心するような心地になった。

(やっぱ、ちゃんと男なんだよナァ)

一見ひ弱そうに見えるし、実際俺よりは遥かに華奢だが、こうやって抱いてると分かる。腹にも、腕や脚にだって、筋肉がちゃんとついてる。胸はぺったんこだし、股間にはまあまあ立派なモンがついてることだって知ってる。そのご立派なモンで、これまでに女を可愛がってきたんだろうことも、想像はついている。
だけど、そのジャンが本来はヘテロであろう男が、時々俺に向けてくる視線。その意味を理解できないフリすんのもそろそろ限界なんじゃねぇのかなって。そう、思ってはいるのに。

俺、男ヤッたこと、ねぇんだよな)

ジャンの腰を抱いてた手を動かして、胴回りを測ってみる。細い。けど、女みたいに括れてるわけじゃねぇ、あくまでも成人した男として見たら、って話だ。それでも、うっかり力加減を間違えたら壊しちまいそうな気がする。
ウエストを掴んでた手を滑らせて、ケツを握ってみる。見た目からも分かっちゃいたが、やっぱり小せぇ。こっちは、女と比較しても小さい方なんじゃねぇかと思う。ティーンのメスガキくらいのサイズ感じゃねぇのか。ガキのケツなんて揉んだことねぇけどよ。

ここに入れる? 本当に? できんのか?)

頭の中でテメェのムスコのサイズを思い描く。そのために設計されてるはずの女相手でも苦労するってのに、用途外のジャンの器官が耐えられるもんなのかどうか。その手の経験も知識も、俺には足りてねぇ。
ジャンの気持ちを受け入れて、そんで。いざやろう、ってなったはいいが、できなかった。そういう展開だって、ありえないわけじゃ、ねぇ。

(愛のないセックスはあってもセックスのない愛はない)

これまで掲げてきた持論を思い出す。愛なんて、もらったことも与えたことも、ねぇくせに。

(惚れてるって、認めてそれなのにやれねぇ、とか。耐えられンのか?)

今なら認める前なら、まだ、我慢できる。このままつかず離れずの距離で、時々こうして抱きしめ合うだけで、済ませられる。
だけど。
このまま気持ちをはぐらかし続けていくうちに、ジャンの気持ちが他の人間に移ろっていっちまったら。俺に向けられる、あの熱の籠った視線。あれが、自分以外の人間に向けられることを思うと、後頭部と腹の奥に同時に火が点いたような、そんな感覚に囚われちまう。
顎の下にある金色の髪の毛にそっと鼻先を埋めて息を吸い込む。俺と同じ石鹸を使ってるはずなのに、果物みてぇな甘さの混じったジャンの匂い。肺の奥までいっぱいに満たされて、タマがズシリと重くなった。

チッ」

クソッタレめ、と内心で吐き捨てる。俺の身体は俺の頭よりも物分りがいい。認めるとか認めねぇとか、そんな段階はとうの昔に過ぎちまってるだろう、と。
突きつけられた現実に白旗を掲げて目を閉じる。

起きたら、覚悟してろよ」

こんな風に抱き合って、何事もなく眠りに就くのは、きっと今夜が最後になる。