こっそり付き合ってるカポジャンさんとバクシーの話。無印軸だけど、バクシーのキャラは悪卵寄り。

甘い罠

9,998文字 / 約12分
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ジャンの腰骨に手を宛て、バクシーは少しずつ自分の勃起をジャンの中へと沈めていく。ジャンの内部は掌に伝わってくる体温よりももっと熱く、孔の入口は食い千切りそうに締め付けてくるくせに中は柔らかく綻んでバクシーを包み込んでくれる。潤滑剤でぬめる隘路を押し進んでいくと、張り出したエラの部分が入口を通ろうとしたところでジャンが喉の奥を引き攣らせるような短い喘ぎを漏らした。

ッ、ぅ」
「すまねえ、ジャン俺、久々でスゲー硬くなっちまってるからキツい、よなぁ?」

腰の動きを止めたバクシーは、汗で濡れて額に貼りついているジャンの前髪を指ですくうように払いのけながらそっと労りの言葉を投げかける。

「んッ、そこで、止めんなぁ

ジャンは痛みのせいか快感のせいか判別のつかない涙で潤んだ目でバクシーを見上げながら、恨めしそうな声を上げた。

「俺なら平気だから、さらしくない遠慮してねぇで、奥まで全部くれよ、バクシー」

ふんわりと笑ったジャンが持ち上げた右手でバクシーの頬を優しく撫でる。

「お前のあっつくでデケェので奥までいっぱいにされて、さぁ、ゴリゴリってしてほしいんだよ。な?」

頬から首筋を辿ったジャンの掌は、そこに彫られた刺青を指先でくすぐるように撫で。更に下に進んでむっちりとした筋肉で盛り上がったバクシーの胸を撫で下ろし、心臓のある位置で動きを停める。そのまま、ジャンは意識して下腹部に力を籠め、バクシーの男性器をきゅうっと締め上げた。自分の中に入り込んでいる男の勃起と掌の下にある心臓が、ほぼ同時に大きく拍動するのが伝わってきてジャンは目を細めて笑う。

「ッハハ、デカくなったぁ」
「クソッ、エロすぎんだろジャン、テメェ
「エロい俺は好みじゃないのけ?」
「っンなわけねぇダロ最高だよ、クソッタレ!」

ジャンの腰骨を掴み直したバクシーは、奥深くへ入り込もうと腰を進めた。自分の下にあるジャンの顔をじっと見つめ、その表情に苦痛の色が混じっていないことを注意深く確認しながら、ゆっくりと猛った剛直を奥へと押し込んでいく。

「あっ、すっげぇ、奥まで入ってくるぅッ」
「あと、もうちっとで全部、入るからよォ」

宥めるように囁くバクシーの汗でへたった前髪を見上げながら、ジャンはその言葉に含まれる嘘に気づいて小さく笑った。もう既に何度もバクシーを受け入れてきているジャンには、まだバクシーの性器の半分ぐらいしか入っていないと察せられている。あと半分を残した状態を、もうちょっと、と表現するには些か無理があるだろう。
まだまだ先が長いことを正直に申告してジャンに拒絶されることを恐れているのか。或いは、これ以上は無理だと判断したら誤魔化して根元までは挿入しないようにするつもりでいるのか。いずれにせよ、ジャンへの好意がその根底にあることは明らかで、ジャンはその嘘を指摘することなく甘んじて流すことにしてやる。

「なぁバクシー、キスして。お前の全部が俺の中に納まるまでの間、ずっと」
「ああジャン、ジャンん、ふッ」

可愛いおねだりにバクシーが一瞬すらも迷わず応じると、ジャンは金色の睫毛をそっと伏せた。どんなに些細な表情の変化も見逃したくないとばかりに、キスをしている間もジャンの顔を見つめているバクシーは、視線が合わないことにほんの少しの寂しさを覚え。

『キスをする時は目を閉じるもんだよ。お互いの嘘がバレないようにね』

子供の頃、馴染みの娼婦たちバクシーに何くれとなく世話を焼いてくれていた大人が、彼女たちの雇用主だったに言い聞かされた言葉が不意にバクシーの脳裡を掠める。
ぎゅう、と心臓を握り潰されたような気分になったバクシーは低く喉の奥で唸り声を上げ、衝動のままにジャンに腰を押しつけた。押し込まれた硬い亀頭がジャンの柔らかい内壁を抉るように食い荒らす。その刺激に、合わさった唇の隙間から吐息と共にジャンの喘ぎ声が零れ出た。

「ぁでっか
「ジャン、ジャン

先程までは、ジャンが辛そうだったら挿入は途中までで止めようと思っていたバクシーだったが。今やそんなことなどすっかり忘れたように、舌を絡ませる合間にジャンの名を呼びながら更に奥を目指して腰を揺する。
ぐっぽりと奥まで押し入った亀頭に弁を押し開かれた瞬間、ジャンの睫毛がゆるりと震え、薄く開いた瞼の間から金色の瞳が覗いた。快感でどろりと溶け落ちそうなその眼に苦痛の色がないのを確認し。バクシーは最後の一押しとばかりに腰を進め、剛直を根元までジャンの腹の中に納めきった。

ッ、バク、シー

喉を鳴らすような、声にならない声で啼いてから、ジャンは自分を抱く男の名を呼ぶ。その声ごと絡め取るようにジャンの舌と口の中を味わってから、そこでようやくジャンの唇を解放し、バクシーはゆっくりと上半身を起こした。
杭に穿たれたような格好で自分の下に横たわる裸体を今にも焼き焦がさんばかりの視線で見下ろして。ジャンの熱い肉の筒を己の猛った剛直で掻き回すように、ぐるりと腰を動かす。

あぁ!!」

刺激に堪らず飛び出したジャンの嬌声に、バクシーの勃起がよりいっそう硬度を増した。

「ッハハァすげーなぁ、お前ん中熱くて、キツくて、なのにふわっふわのトロトロで柔らかく包み込んできてクッソたまんねぇ
「バカ、実況、すんな

言葉では文句を言いながらも、バクシーを見上げるジャンの顔は快感に蕩けてだらしなく緩んでいる。

「なぁ、ジャン、俺のチンポ、キモチイイ? ここ犯されんの、好きだろ? 感じる?」
「あッ、奥、おく、スゲェッ」

指どころか並の男性器でもそうそう届かないような奥深い場所を、弾力のある亀頭でぬちぬちとこじるように虐めてやると、ジャンは耐えかねたように悲鳴じみた嬌声を上げた。

「ヤベェ、イク、なぁ、イッちまうってぇ」
「イケよ。雄ザーメンぶち撒けて、俺のチンポでイッちまうとこ、見せてくれよ」
「あッ、イク、イクッ」

ジャンの達する瞬間を一瞬たりとも見逃すまいとする男の視線に煽られながら、ジャンはベッドから背中が浮き上がりそうなほどに身体をしならせて達する。二人の身体の間に挟まれていたジャンの性器から吐き出された精液の匂いがバクシーの嗅覚を刺激して、ジャンの中に埋め込まれたバクシーの勃起を更に熱く硬くさせた。

「ジャン、可愛い可愛い、俺のもん俺の、もん、だッ」
「あ、あん、ふッ」

達した余韻でぼんやりとするジャンに覆い被さり、緩く開いた唇にむしゃぶりつくように口づけて、バクシーは激しく腰を穿つ。

「あ、はぁ、キスしながら腰振ると、スゲェ気持ちいいジャンの入口と奥のとこが一緒にきゅう、きゅうって締まって」
「ん、んんッ」
「ジャン、また、イクのかよ?」
ッ!!」

バクシーの問いかけに答える余裕もなく、ジャンは全身を震わせるようにして、今度は精液を放出せずに達した。それと同時にバクシーを銜え込んだジャンの内部もうねるように波打ってバクシーの精液を搾り取ろうと刺激してくる。

「あ、ヤベ、俺も、出るッ」

早まった腰の動きに合わせて潤滑剤の立てる粘着質な水音も大きくなる。限界まで硬くなった亀頭を幾度もジャンの内壁に擦りつけ、バクシーはジャンの中で精液をぶち撒けた。

「はぁーすげぇ、出たっつーか、まだ、出てるわ

吐き出した精液をジャンの体内に刷り込もうとでもいうようにバクシーが腰を擦りつけると、それに反応してジャンの身体がビクビクと幾度も痙攣する。締まりなく緩んだジャンの唇の端から溢れ出た涎を、舌を這わせて舐め取ってから、バクシーはずるりと性器を引き抜いた。それすら刺激になってしまうのか、ジャンの唇から艶めかしい喘ぎ声が漏れる。

「ん、ふッ」

溢れ出した潤滑剤と精液に濡れたジャンの後孔が、忙しなく開閉を繰り返して粘着質な水音を響かせる。快感の余韻を伝えようとするかのようなその様を見ていると、バクシーは今すぐにでもまたそこに剛直を捩じ込んで好き放題に貪りたいという気持ちになった。だが、そこをぐっと堪え、ジャンの身体を横抱きにして立ち上がる。

「風呂に入るべ。中、かき出してやっからよ」
「ん

くったりと力の抜けたジャンは、促されるままにバクシーの太い首に腕を回してしがみつく。厚い胸板にもたれかかってきた金色の頭の天辺にキスを落とすと、軽く揺するようにしてジャンの身体を抱え直し、バクシーは浴室に向かって歩いていった。

◇ ◇ ◇

バクシーに甲斐甲斐しく身を清められたジャンは、湯を溜めた浴槽の中でうとうとと微睡んでいた。背後から自分を抱え込んでいる男の存在のおかげで溺れる心配はしなくていい。そう思うと、ついつい気が緩んでしまう。

「なぁ、ジャンよぅ」
んー?」

鎖骨の辺りに預けられたジャンの頭頂部に顎を乗せたバクシーが低い声で名を呼ぶと、ジャンは眠気を纏った声で返事をした。その声の響きに、バクシーの話を聞く気はちゃんとある、という相手の意志を感じ取り、バクシーは甘えるようにジャンの頭に頬を擦りつける。

「もっとおめぇに会いてぇっつーか、ずっと一緒にいてぇなぁ、とか思うんですが」

バクシーにしては珍しい、躊躇いがちの口調で告げられた言葉の内容に、ジャンの意識が眠りの淵から引き上げられた。ゆっくりと瞼を押し開いたジャンは、二度、三度と瞬きをしてから背後の男に応じる。

「ずっと一緒にって、俺はこっちでカポ業務やらなきゃなんねぇしお前にもロックウェルでのシノギがあんだろうが」
「それだけどよぅ俺がオメーの個人的な兵隊になるっつー手もあるんじゃねぇの?」
お前がGDを抜ける、ってことか」
「お前はマフィアをCR:5のボスを辞める気はねぇ、んだろ?」
「そりゃあ、そうだけど
「だったら、俺が辞めるしかねぇべ」

ジャンとしてはバクシーが自分の私兵になれば防犯的な意味では大いに役に立つことだろうとは思うが、幹部四人との相性は最悪であろうことも容易に想像がついた。それに、組織を抜けてジャンの許へとやってきたギャングの幹部を周囲がどのような目で見るか、ジャンとの関係をどのように判じるかは分かりきっている。

怪文書騒動再び、ってとこだろうなぁ

ジャンが前ボス・アレッサンドロの尻を舐めて二代目カポに成り上がったチンピラであり、幹部たちとは男色の関係にある、と中傷する冊子が出回ったのは昨年のことだった。真実など一欠片も含まれていないような話でも、大勢の人間が信じてしまえばそれは致命傷となる。そうなれば、支援者からも兵隊からも見放され、最終的には組織の破滅に繋がりかねない。
その騒動を収めるまでの間に味わった心労の深さを思うと、同じ轍は踏みたくないと思ってしまう。まして、バクシーとジャンの関係に至っては根も葉もない中傷というわけにはいかないのだから尚更だ。
巡らせた考えをできるだけ簡潔にまとめて伝えたジャンの言葉に、バクシーの呻り声が返される。表情は見えないが、声の響きからすると恐らくは怒っているというよりは拗ねたような顔をしているのだろうと思って、ジャンは小さく笑った。

「それにさ。ゆくゆくはお前がGDのボスになってくれたりすると、俺としてはやりやすくていいなぁって思ってんだけどな」
「ハァァァァ? 俺が? ボス? 柄じゃねぇダロ」
「そうでもないと思うけどなぁ。お前は視野が広くて頭もいいし、意外と面倒見良かったりもするから」
「ウチの親父は面倒見の良さとか全ッ然持ち合わせてねぇけどなぁ」
「ハハ、だったら余計にお前の方がボスに向いてるんじゃねぇの? それに」

一度言葉を切ったジャンは、自分を抱きかかえるバクシーの腕の中で向きを変え、頭一つ分高い位置にある顔を見上げた。きょとんとした表情で見下ろしてくる銀色の双眸をじっと見つめながら、ジャンは改めて口を開く。

「めちゃくちゃ強くて、誰よりも頼りになる。俺がギャングの兵隊だったら、お前みたいなボスに付いていきてぇなって考えると思うぜ」
っ」

真っ直ぐに自分の目を見ながら伝えられたジャンの言葉に、バクシーは言葉を詰まらせた。ジャンに愛する男に評価してもらえている嬉しさと、結局彼の傍にいることは承諾してもらえていないことへの不満が綯い交ぜになったバクシーの表情を見て。彼の内心の葛藤が手に取るように分かってしまったジャンは、声にならない笑いの吐息を漏らし、湯の中から伸び上がるようにして、バクシーの顔に自分のそれを近づけた。
ゆっくりと重なった唇の間から、ぬるりと入り込んできたジャンの舌がバクシーの口の中を探っていく。敏感な箇所を舌先でくすぐるように撫でられて、ジャンの尻の下にあるバクシーの性器がビクリと震えた。

「ッジャン
「なぁ、久々に会ったのに一発で終わりなんて言わねぇよな?」
「ったりめぇだろ、が

大きな手でジャンの後頭部を支えると、今度はバクシーの方から食らいつくようなキスを仕掛ける。甘い吐息を漏らしながら、ジャンは差し入れられたバクシーの舌先に柔らかく歯を立てた。ジャンの戯れに、子猫のしでかしたいたずらを窘めるような表情になったバクシーが、仕返しだと言わんばかりにジャンの舌先を甘噛みする。

「っふふ、でっかく、なってきたぁ」

己の尻の下でどんどんと体積を増してくるバクシーの性器を、腰を揺すって刺激してやりながら、ジャンは先の長い夜を思ってにんまりと笑みを浮かべた。

◇ ◇ ◇

忙しなく部屋の中を動き回る人の気配でジャンは目を醒ました。ベッドに横になったまま瞼を押し上げると、見慣れたピンクのベストを身に着けた男の背中が目に入る。

「んバクシー? もう、行くのか

明け方まで酷使していたためか、微かな痛みを訴えるジャンの喉から、水分が抜けてしまったみたいに掠れた声が出た。その声に背中を撃たれたバクシーはベッドを振り返り、バツの悪そうな表情をしてみせる。

「すまねぇな、ジャン。起こしちまったか水でも飲むけ?」
「ん。グラーチェ」

ベッドの上で上半身を起こしたジャンは、大きな手が差し出したグラスを受け取り、喉を鳴らして一息にそれを飲み干した。

「もう一杯、いるけ?」
「んや、今ので充分」

空になったグラスをバクシーに手渡しながら、ジャンは目の前の大きな身体をぼんやりと見上げる。

「もう、ロックウェルに帰んの?」
「おう。汽車の時間があるからな」
「さっきの起こしてすまねぇって言ってたけど、まさか俺に黙って帰るつもりだったのかよ」
「ウンジャンの声聞いて顔見ちまったら、帰りたくなくなっちまうからよォ
「カーヴォロ、何も知らずに起きてお前がいなくなってた時の俺の気持ちを考えろよ」
「それってジャンも俺と離れるのが寂しいって思ってくれてるってことか?」
「それくらい、言わなくたって分かんだろ?」

困った坊やだとでも言いたそうな顔で苦笑したジャンの頬に、大きな手がそっと触れて上を向かせる。頭上高くから覆い被さってくる影に唇を塞がれて、ジャンはゆっくりと目を閉じた。口の中に入り込んできた熱い舌がぬるりと歯茎をなぞった後、上顎の天井を舌先でくすぐるように撫でてくる。セックスを始める前にするものとは違う、ゆったりと穏やかな口づけを一頻り味わってから、バクシーは未練がましそうに唇を離した。

「あー、クソ汽車の時間さえなきゃもう一発やりてぇ
「昨日っつーか今朝方まで散々出したのにまだ出るのかよ? お前スゲーな」
「おめぇが相手なら無限に出せる気がするけど、もう行かなきゃだわ
「ん。駅までは無理だけど玄関先までは見送ってやるよ」

ベッドからするりと抜け出したジャンは、大きめのシャツを一枚、素肌に直接羽織っただけの格好でバクシーの横に立った。隣にいる男の顔を見上げて軽く眉を上げ、シャツから覗く白い太腿に視線が釘付けになっているバクシーの尻を大きな音を立てて引っ叩く。

「アホ面してんなって。昨日も散々見ただろ?」
「今度、俺のシャツを着てくれ
「お前、いっつもシャツなんて着てねぇじゃん」
「着てくるから、頼む」
「ハイハイ身体には気をつけろよ」
「それを言うならオメーの方だろ。酒も煙草もほどほどにしとけ」

危ないクスリでもやっていそうだ、という当初のイメージに反して実に健康的な日常を送っているらしい男の言葉に、ジャンは眉尻を下げて笑うと小さく肩を竦めた。心配してくれる気持ちは嬉しいけれど悪い習慣を積極的に改めるつもりはないぞ、という無言の返しに、バクシーもまた少しだけ眉尻を下げ。何か言いたそうに口を開いたものの、結局バクシーは何も言わないままそれを閉じた。
らしくもない我慢をしている男の不満そうに尖らされた唇にもう一度吸いつくようなキスをしてから、男のごつい二の腕をジャンは促すように軽く叩く。

「ホラ、時間、だろ?」
「ああまた、会いに来る」
「ん、待ってるぜ」

大きな身体を屈めるようにして玄関のドアをくぐったバクシーの背を見送って、ジャンは部屋のドアを閉めた。

「どうすっかなぁ寝直すには目が冴えちまったし」

酷使された身体はまだ眠りを欲していたが、今からもう一度ベッドに戻って目を閉じても睡魔は訪れそうにない。それに恐らくはきっと、そういくらも時間の経たないうちにこの部屋を訪れることになるであろう男の顔を思い浮かべ。欠伸をしながら両腕を天井に向け、大きく伸びをしたジャンは、コーヒーを淹れるためにキッチンへと向かった。

◇ ◇ ◇

服を着て身なりを整え、二杯目のコーヒーを飲みながらソファで寛いでいたジャンの耳を、控え目なノックの音が打った。

「ジャン、さんお迎えに、上がりました」

ドアの向こうから届けられる密やかな声は聞き慣れた部下のもので、ジャンはドアを開けて彼を迎え入れる。

「ようジュリオ、お疲れちゃん。ここにはあんまり近づくなって言ってんのに、毎回迎えに来ちゃうのなぁ、お前」

ジャンの命令に対しては基本的に絶対服従の姿勢を崩さないジュリオだが、事この件に関してだけは従おうとしない。命令違反を咎めるジャンも責めるというよりは呆れたような口調で、困ったものだと言いたげな笑みを浮かべるばかりだった。

「お言葉、ですが本部に比べるとここのセキュリティは心許ない、ですから」
「俺の身を案じてくれるのは本当にありがたいと思ってるんだけどサ、あいつに気づかれると面倒なことになるじゃん?」
「あの、男がいる間は、気づかれる距離には近づかないようにしています、ので

自分とバクシーの関係を唯一知っている部下の、苦虫を噛み潰したような表情を目にしたジャンは、それに気づかなかったふりで少しだけ冷めたコーヒーを啜る。

「まさか、あのショットガン・バクシーにハニートラップが有効だったとは思わなかったよなぁ。それも、男の」

厄介な相手であるギャングの幹部を色仕掛けで何とかできないだろうか、なんてことを思いついた当時の自分は頭が湧いていたのだろうとしか思えない。だが、こちらの思惑を尽く裏切ってくる破天荒な男に組織の内外を引っ掻き回されて疲弊していたジャンが打った起死回生の一手はこの上なく効果的に働いた。

「男の、じゃないジャン、さん、あなただから、です
「俺だから、ねぇ。まぁ、褒め言葉だと思って受け取っとくか」

大して嬉しくもなさそうな顔で肩を竦めたジャンは、かつて、ジャンをホモだと罵り糾弾しようとした男役員会に名を連ねておきながらカポに銃を向けるという愚挙を犯した、今はもうこの世にはいないはずの男の顔を思い出す。今のこの状況は、その男の存在がなければありえなかっただろうと思う。自分をそのような目で見る男が存在する可能性を提示されたことが、ジャンの意識の何処かに刷り込まれて残っていたのだ。感謝をする気には一切なれないが、あんなのでもケツを拭く紙よりはいくらか役に立ったなぁ、という身も蓋もない感想と共に、ジャンは男の顔を脳裡から追い払った。

「あなたが自らを犠牲にする価値があるとは、思えませんあの男が目障りなのであれば、いつでも、俺が
「ストーップ、ジュリオ。あいつがそう簡単にやれる相手じゃねぇってのはお前だって分かってるだろ」
「ですが
「あいつが自分とこのボスを通してGDをコントロールしてくれてるおかげで、うちがかなり楽になったのは確かだしな」
「そうかも、しれません、があなたが身体を張る必要なんて

恋人の葬式か、或いは密かに想っていた相手の結婚式に参列することになった男の如き沈痛な面持ちになったジュリオの顔を見て、ジャンは吹き出すように笑いながらコーヒーのカップをテーブルに置く。

「なぁジュリオ、俺のことを生贄になった乙女みたいな言い方しないでくれよ。これでも結構楽しんでるんだぜ」
え?」
「あいつが案外可愛い男だってのが分かって面白かったし、セックスも慣れちまったら思いの外悪くねぇ。バローネに噂流された時はナンノコッチャと思ってたけど、俺、意外と向いてたみたいよこういうの」

悪戯っぽく微笑んでウィンクするジャンに、ジュリオは途方に暮れたような表情を向けた。救いの女神だと信じていた相手が実は金が目当ての娼婦だったと判明した男のようだ、と思ったジャンは、自分の発想の捻りのなさに苦笑する。

「さて、そろそろ帰るか」

そう言って、ジャンは空になったカップを手にキッチンへ向かった。それを流しで洗っている間、ジュリオの視線は途切れることなくジャンを追ってくる。いつでもジャンへの崇拝と憧憬を浮かべているジュリオの瞳は戸惑いが入り混じって揺れ動いているが、それでもやはり視線に載った熱は変わらずジャンへの恋慕を伝えてきた。
幻滅させるようなことを言ったつもりだったジャンは、ジュリオの反応を意外だと感じながらも、同時に、否、思った通りだと正反対の感想を抱く。

「そんじゃ、車までエスコート、頼むぜ」
はい。では、行きましょうか」

言われるがまま、レディをエスコートするかのように自分の背に触れたジュリオの手が微かに震えているのをそれが緊張や嫌悪などではなく、ある種の興奮から来ていることを感じて、ジャンは小さく笑った。

(こいつのこういうとこが、可愛いんだよなぁ

男とのセックスも悪くない、というジャンの台詞に惹起させられたのであろうジュリオの反応を愉しみながら、ジャンは足を進める。このいじらしいほどに初心で可愛い部下の気持ちに気づけないほど鈍感ではないジャンだが、ジュリオとセックスをするつもりはない。
ただし、それは彼と身体を重ねることに抵抗があるからではなかった。
手と手が偶然触れ合っただけで薄っすらと頬を染めるジュリオの純情さが失われることを惜しんでいるから。彼から向けられる、手に入らないものを欲する視線が心地良いから。自分との行為を期待して想像をエスカレートさせていく、濡れた目を眺めていたいから。
つまるところ、飾らずに言ってしまえば、セックスをせずに焦らしてやっている時が一番、ジュリオの反応を愉しめるのだ。

(自分にこういう性癖があるなんて知らなかったよナァ

ジャンが己のそういった性質に気づいたのは割と最近のことで、目覚めさせたのは、間違いなくバクシーだと確信している。
ジャン自身は、自分とバクシーの関係に名前をつけて表したこともなければ、バクシーに向けて明確な愛の言葉を囁いたこともない。お互いの所属する組織同士の関係が今後どのようなものに変化していくか分からない以上、言質を与えてしまうのは得策ではないからだ。
それとない言葉で匂わせるだけで明言しようとしないジャンに、バクシーも気づいているはずだった。欲しい言葉を与えられないことに対する不安と不満を抱えながらも、情熱的に愛を交歓してくれるジャンの態度に期待を抱かずにはいられない。問い詰めたいが、それをすればもう二度とジャンに触れることはできなくなってしまうかもしれない。そんな不安と期待を滲ませたバクシーに抱かれるのは、この上なく気持ちが良かった。
あの、人を人とも思っていないような傍若無人な男が、虫けらの足を捥ぐよりも容易く人間を殺せる男が、自分の一挙手一投足に息を潜め、怯え、振り回される。それは、セックスによる一時的な肉体の快楽など遥かに凌駕した。

あいつ、次はいつこっちに来るかなぁ)

母に拒絶されることを恐れる幼子のような目で自分を見つめる男の顔を思い浮かべ。ジャンは小さく覗かせた舌でちろりと唇を舐め、うっそりと微笑んだ。