不意に目が覚めた。部屋の中は暗くて、夜明けはまだしばらく先のようだった。闇の中、忙しなく眼球を動かしながら周囲を探ってみるが、おかしな気配はない。何かがセンサーに引っかかって覚醒したってわけじゃあなさそうだ。
上半身を起こすと同時にブルリ、全身が震える。頭が答えを叩き出す前に、身体の方が先に見つけちまった。二階にある俺のヤサにはダコダ式かまどもねぇから、太陽が沈めばあっという間に空気が冷えていく。薄着のまま何もかけずにベッドの上に転がっていたせいで身体が冷えちまったんだ。
「――クソ、寒ぃなぁ……」
ブーツを履いたままの足を床に下ろして立ち上がる。ソファの背もたれに掛けてあった毛布を引っ掴み、開けてあった穴に頭を通して上着代わりに被って。即席の貫頭衣のおかげで、皮膚に触れる冷気はようやく遮断された。
ちょっとばかり間抜けな格好で人心地ついた俺は、一階に――ジャンの部屋に行こうかどうか少しだけ悩んで。主のいない部屋に一人で佇む自分の侘しい姿を想像した俺は顔をしかめ、一階に行く代わりに窓際へと足を向けた。破れ窓に打ち付けられたブリキ板の隙間から見下ろした通りには人間も車も――およそ生き物がうろついている気配がしない。ジャンの姿があるかもしれないなんて期待したわけじゃなかったはずなのに、それでも落胆を覚えてる自分に舌打ちが漏れた。
頭上に視線を移すと、遠くに丸い月が浮かんでるのが見える。やけに青白く光るその姿に、俺は何故か自分の腹の中にあるモンのことを思い出し――その瞬間、何とも言えない嫌な感覚が、ぞわり、足元から這い上がってきた。抑え込もうとしても、まるでグラスの水に落としたインクみてぇに――全身のあちこちから触手を伸ばす生き物よろしく、俺の手を、理性をすり抜けてどんどん全身に広がっていく。
「――クソッタレが……」
こいつの正体を、俺は知っている。クッソくだらねぇ〝不安〟ってやつだ。こんなもん、抱え込んでたってクソの役にも立たねぇ。分かってんのに、野郎はこうして時々顔を覗かせる。ジャンがいない隙を――俺が弱くなってる時を、狙いすましたみてぇに。
「ジャン……俺は、怖ェ……」
ジャンを〝こっち側〟に引きずり込んだことを後悔なんてしねぇ。だけど、ジャンにそれを後悔される日がいずれ訪れるかもしれねぇって、そんな風に想像しただけで震えが来る。こんなん、ジャンが聞けば、また怒るだろう。だけど、ジャンを信じてないわけじゃねぇんだ。俺と一緒にロックウェルで生きていきたい、そう言ってくれるジャンの言葉を疑ったりなんてしねぇ。
「俺が信じてねぇのは、多分、俺自身だ――」
人間の心は移ろうもんなんだってことを、俺は知ってる。いつまで、一緒にいたいとジャンに思ってもらえる俺のままでいられるんだって。そんな風に考えちまう瞬間がどうしたってあるんだ。
「クソ……弱ってんなァ、俺……」
無意識に胃の辺りを――あの金ぴかの輪っか野郎がいるんだろう場所を擦ってた手を止めて。やっぱり一階に行こうと俺は窓から離れた。今のこの身体には熱も糖分も足りてねぇ。火を熾して湯を沸かして、何か腹に入れて。そうして、こんな不安なんか、飲み下してやりゃあいい。