イヴァンちゃんについてルキーノとジャンさんがお話してるだけ。イヴァンちゃんは名前しか登場しない。

Leone vs Randagio

4,749文字 / 約6分
   文字サイズ:

「あんたが好きな子をいじめたいタイプだったとは知らなかったぜ」

呆れたような声を出すジャンを振り返ると、ルキーノはその肉感的な唇を皮肉めいた笑みの形に歪めた。

「俺があいつに惚れてるとでも? 本気で言ってるのか?」

わざとらしく見開かれたローズピンクの瞳へ、ジャンは肩をすくめてみせた。

「あんたがそういう意味でイヴァンを好きだと思ってるわけじゃないってのはわかってんだけどサ、やっぱアレは可哀想かなーとか思っちゃうワケ」

ふざけた口調ながらも、ジャンは少しだけ咎めるような目つきになる。彼の言葉と視線が意味するものを悟ったルキーノは、大きな掌を上に向けて肩をすくめた。
今日のイヴァンはその意外に白い首筋に、目にも鮮やかなキスマークを貼り付けて登場した。ジュリオのように首周りを隠すファッションをしたり、包帯などで怪我を装ったり、いくらでもごまかしようはあったはずなのに、イヴァンはあえてしなかった。もちろん、見せびらかしたいはずはなかったのに、だ。
日頃は露出の多いイヴァンが理由もなく服装を変えれば要らぬ詮索をされることは間違いない。怪我を装えば、CR:5の武闘派幹部が誰にやられたのかと内外から揶揄されることになる。その不快さに比べれば、嫉妬深い女に所有権を主張されているのだと思われた方が、イヴァンにとってはまだマシだった。
首にべったりと貼り付けられたその所有痕に向けられた視線を感じ取るたびに、イヴァンの眉間には深い皺が刻まれていった。まして、それをつけたのが女などではないと知っているジャンやベルナルドが視線を向けた時には、イヴァンの耳朶から首にかけて鮮やかな朱色が刷かれるのがはっきりと見て取れた。
日頃は厚顔無恥を絵に描いたような言動ばかりを繰り返しているが、実は意外にシャイな最年少幹部のそんな表情には確かにそそられるものがあったが、という本音は胆の奥底にしまいこんで、ジャンは第二位幹部をたしなめる。

「あんな風に縄張り主張しちゃうなんてさぁ、アンタらしくないんじゃねぇの?」
「ありゃあ、お返しだぜ」

そう言って肩をすくめたルキーノは、一瞬だけ不快そうに眉をしかめた。

「お返しって、なんの」
「これのだよ」

ジャンの問いかけに応じて、赤毛の大男はネクタイをゆるめるとシャツのボタンを外し、前を開けてみせる。中から現れた物を見て、ジャンは怪訝そうな顔で首を傾げた。ルキーノの首の付け根には、白いガーゼがテープで固定されている。

「えーと、怪我、してんのけ?」

それともその下にはイヴァンと同様、情事の痕跡が残されているのか、と思いつつ問いかけたジャンは、ルキーノの表情を見て訊ねたことを後悔した。

(うわー、訊いといてナンだけど、返事聞きたくねぇー)

以前にも見たことのあるマジソン刑務所の中で亡き妻の話題を振った時のことだった、とジャンは記憶している獰猛な笑みを浮かべたルキーノが、ニィ、と唇を歪める。

「この下がどうなってるか知りたいか?」
「エー、アタシ、そんな人の秘密とか詮索したくないわぁ」
「遠慮するな、教えてやるよ」

大きな手が無造作にガーゼを掴んでむしり取ると、その下から現れたものを見たジャンの顔が歪められた。

「それ、イヴァンがやったのけ?」
「アイツ以外の誰が俺にこんなことができる?」
「ア、ソウ」

ある種のノロケとも受け取れそうな台詞を右から左へ流しつつ、ジャンは『それ』をまじまじと見つめた。ルキーノの首の付け根は肉が抉れた状態で、未だ塞がっていないその傷口からは血液や黄味がかった透明な液体がにじみ出ているのが見て取れる。

「ひでぇもんだろ? ちょっと手荒に可愛がってやったら、いきなりガブリ、だ」
「ワーオ、イヴァンちゃんたら野性的ね」
「あぁ、まだまだ躾が足りんようだな」

ルキーノの口ぶりに、ジャンは別の意味で眉をひそめる。

「そういう言い方すんなっつーの。イヴァンは犬じゃなくて仲間なのよ?」

カポの苦言に、ルキーノは悪びれる風もなく応じた。

「ちゃんとわかってるさ。俺だって犬に突っ込む趣味はないぜ? まぁ、ドッグスタイルで突っ込むのは嫌いじゃないがな」

ルキーノの傷口を見た時には、そこまでやるイヴァンに対して首には太い血管もあるし、一歩間違えれば致命傷だ多少なりともひいていたジャンだったが、イヴァンを四つん這いにして首輪を嵌めたら似合いそうだ、などと嘯きながら笑うルキーノを見ていたら、やはり彼に同情したくなってしまった。

「だいたい、何が不満なんだ? 確かに最後の方はちょっとばかり乱暴にしちまった自覚はあるが、そこまでの間にちゃんと浣腸して中まで綺麗にしてやって、ローション使ってトロットロになるまで弄ってやって
「俺にはイヴァンの気持ち、よーくわかるぜ

ジャンは疲れたようなため息をついた。ルキーノにされるあれやこれやが気に入らないのはもちろんのこと、こうして他の幹部の前で自分がされたことをあっさりバラしてしまうようなルキーノの性格そのものもイヴァンの気に入らないに違いない、とジャンは確信していた。

(つーか、今の話がバレたらルキーノは自業自得だけど俺まで殺されそう)

昨夜自分がルキーノにどんなことをされたのかをジャンにバラされたと知れば、直情径行のイヴァンのこと、思いつめすぎて『ルキーノを殺して俺も死ぬ』ぐらいは言いそうだ、そんなことで貴重な幹部を二人も失うのは実に下らない。そう思いつつも、ジャンは溢れ出る好奇心を抑えきることができなかった。

「でもさぁ、そんな怪我させられたらさすがに諦めたんだろ?」

具体的な行為については興味がないし、イヴァンがどんなことをされたのかも特に知りたいとは思っていない。ただ、そこまでの抵抗をされたルキーノの心境については知りたかった。

(女には抵抗されたことなんてねぇだろうしな、この色男は)

「そう思うか?」

ルキーノは実にいい笑顔で答えたが、その笑顔を見たジャンは肝が冷えた。

「俺の首を噛みちぎったイヴァンはな、壮絶にそそったぜ?」
ハァ?」
「血塗れの唇の間から覗く真っ白い歯に俺の肉片咥えて、潤んだ目でギラギラこっちを睨みつけてきて、あれは興奮せざるをえないだろう」

(ワーオ、イッちゃってるよこの人

遠い目になったジャンは意味もなく十字を切っていたが、幸か不幸かルキーノの目には映っていなかった。

「まぁ、さすがに痛かったから、二、三発ぶん殴ってやったら脳震盪を起こしたみたいでな」

そのまま裏返して後ろから犯してやったのだ、とルキーノは言った。

「聞いてるだけでケツの穴痛くなってきた」

うぇ、という擬音つきで顔を歪めたジャンに、ルキーノは心外そうな表情を向ける。

「カーヴォロ、俺が相手に怪我させるような下手を打つかよ。ちゃんと解してやってたし、俺のはびしょ濡れだし、いい具合に力は抜けてるしで根本まですんなりズルッといけたぜ」

以前に風呂で拝んだことのあるルキーノのサイズを思えば、いくら念入りに準備をされていたところで、イヴァンの身体には相当な衝撃が走ったであろうことは、ジャンの想像に難くない。

(あー、マジでアヌスがきゅんきゅんするわ

ジャンは小さく身震いをして、目の前にいるケダモノの顔を見上げた。

「どうした、変な顔して? 誘ってんのか?」
「ファンクーロ、ンなわけねーじゃん。俺はイヴァンに同情してんのヨ」
「同情だぁ? 必要ないだろう。突っ込んでやったらすぐに目ぇ覚まして、痛ぇだの抜けだのぶっ殺すだの騒いでたが、最後には泣きながらきっちりたっぷりぶちまけてやがったからな」

男の生理として、刺激されれば出るべきものが出ても致し方のないことであるが、男の、それも犬猿の仲であるルキーノの手によって無理やり射精させられたしかも後ろに突っ込まれた上で、だという現実は、イヴァンにとって計り知れない屈辱であっただろう、とジャンはしみじみとため息をついた。

「ルキーノさぁ、それってレイプって言わねぇ? 仲間をレイプしちゃマズイっしょ」

仲間が相手でなければレイプしてもいいのか、という問いかけは、マフィアに対して愚問である。

「そうか? あいつだって気持ち良さそうだったんだ、射精しちまったら合意だろ」
「いやぁその考え方はどうかナ
「まぁ、レイプでもなんでもいいさ。俺が愉しめたんだからな」
「ワーオ、最低な本音が出ちゃってるって」

頼むから一般人の前ではいつも通りの紳士の仮面を被っていてくれよ、と心の底から祈ってみせるジャンに対して、ルキーノは当たり前だろう、と呆れた顔を見せる。

(呆れてんのはこっちだっつーの)

「それになぁ」

自分を見つめるジャンの冷たい視線を平然と受け止めたルキーノは、ニヤッと唇の端を歪めるやり方で笑う。

「あいつは泣き顔が秀逸なんだ。普段は気が強くて可愛げのないただのクソガキだが、あの泣き顔は思い出しただけでも滾るぜ」
「ルキーノさん、ココでぶちまけんのだけは勘弁してネ」

『イヴァンの泣き顔』を思い出しているらしいルキーノの、仕立ての良いコンプレートに包まれた身体の中心部がきっちりと反応しているのを横目で見やって、ジャンは本日何度目になるかわからないため息をついた。

「まぁ、あの泣き顔に免じて、この傷の代償はあのキスマークで勘弁してやったってわけだ」
「勘弁してやった、ね」

傲慢な言い種を揶揄する口調でジャンが鸚鵡返しにつぶやくと、ルキーノは傷口に再びガーゼをかぶせながら眉を上げた。

「ドクに見せたら謎の薬をぶち込まれた後で傷口を焼かれそうになった。生きたままステーキなんて冗談じゃないぜ」
「自分の焼ける匂いは嗅ぎたくねぇなぁ

自分がイヴァンに負わされた怪我の程度を思えば、キスマークをつけたぐらいではお返しにもならない、とルキーノは本気で考えていたが、ジャンには通用しない。

「けど、あんたのそれは自業自得じゃん? カポ兼イヴァンの親友としては、これに懲りてイヴァンをいじめるのは控えてほしいトコなんだけど」
「いじめてないさ、これ以上ないぐらい可愛がってる」

ルキーノがどこまで本気でそう言っているのかジャンにはわからないが、控えるつもりがない、という意志だけは充分に伝わってきた。

「そこまで聞かされると、俺もイヴァンに興味が出てきそうなんですケド俺がアイツを襲っちゃったらどうする?」

さすがの色男も慌てるのだろうか、といささか意地悪めいた気持ちで発した台詞を出迎えたのは、驚きを隠さないルキーノの表情だった。

「なんだ、おまえもイヴァンに興味があるのか?」

ジャンの顔をまじまじと見つめると、ルキーノは眉間に深い皺を寄せて難しい顔になる。

(おーおー、悩んでる悩んでる)

「アイツの腕っぷしはおまえより上だからな、正攻法でいったらまず無理だろう。となると一服盛るか、あるいはそうだ、おまえなら情に訴えるって手も通用するかもしれんなぁ?」
「エート、ルキーノさん?」

自分の予想の遥か斜め上から返ってきたルキーノの返答に、ジャンはがっくりと項垂れた。

「ん、なんだ? 搦め手は不本意か?」
「や、俺が言ったのは『もしも』の話であって、アンタと違ってイヴァンのケツの穴にもチンコにも興味ねぇから、ウン」
「そうなのか? あの具合の良さは一度ぐらい試しても損はないと思うが」

もったいない、とでも言いたげな口調に、ジャンは自分の敗北を悟った。

ルキーノがイヴァンに対して恋愛感情を抱いているわけではないのはジャンも理解していたつもりだったが、それを考慮に入れたとしてもこれはひどい、と思わずにはいられない。

(イヴァンちゃん今度会ったら、マンマが好きなだけホットドッグとロリポップ買ってあげるから!)

ジャンは密かに誓った。