神なんかよりもジャンさんの言いなりになっちゃうバクシーを書きたかった。

024:好きにして

2,449文字 / 約3分
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ベッドに座るなり膝の上に乗り上げてきた恋人に、積極的なお誘いかと色めき立って伸ばした手。その手が捉えられたかと思うと、手首に何かを巻きつけられる感触がした。くすぐったいような感覚に反射的に手を引こうとするが。

「いい子だから大人しくしてろよ」

そう言われてしまえばじっとしているしかない。時間としてはほんの一、二分といったところだろうか。満足そうに笑うジャンの目の前で、男は自分の両の手首に括りつけられたばかりの細い糸を不思議そうな顔で見つめた。手首から伸びた糸の先はベッドのパイプに繋がれており、表面だけをなぞればベッドに拘束されていると表現できるかもしれない。
だが、所詮はただの糸だ。本気でバクシーを拘束しようというのであれば金属製のチェーンの一つも用意すべきところであろうが。麻縄や革紐ですらない、それどころかバクシーが普段傷口の縫合に使うような糸と比較してさえも頼りなく見える、ともすれば赤ん坊ですら引き千切ることができるのではないかと思うような脆そうな糸。
こんなもので縛めることに何の意味があるのか、と探るように自分の顔をじっと見つめる男に、ジャンはにんまりと微笑みながら教えてやった。

「それ、リリーのクニでは〝しつけ糸〟って言うらしいぜ」
「ホァ? 俺、躾されちまうんけ?」
「ああ。その糸を最後まで切らずにいられたら、次ヤる時はお前のしたいこと、なーんでもしてやるぜ?」
「マジかよぅ、ボクちん、頑張りまっす!!」

期待にキラキラと目を輝かせ、良いお返事を返してくる無邪気な恋人にくすり、笑みを零して。ジャンはその逞しい首へと腕を回した。首を傾けたバクシーが、当たり前のように唇を重ねてこようとするのを寸前で避けて。首筋に唇を押しつけて強く吸いついてやると、バクシーの唇から漏れた熱い吐息が空気を揺らす。

「ジャぁン

甘い甘い、煮詰めた蜂蜜を舐めてしまったかのような声。この男がこんな声を出すなんて誰も知らないだろう自分以外は。そんな風に考えると、ジャンの腹の奥、いつもバクシーの硬く熱い雄で埋め尽くされている場所がひどく疼いた。思わずそのままバクシーの首に痕を残してしまいそうになるが、そんなものがひよこたちの目にでも入ったら、いたたまれない思いをするのはジャンの方だ。
いったん唇を離して頭上にある顔を見上げたジャンを、熱を帯びた視線が出迎える。腹の奥の疼きを悟られないようにニィッと挑発的な笑みを返して、ジャンは普段よりも低い声で囁いた。

「ちゃーんといい子にしてろよ?」
「あ、ハイッ」

妙にかしこまった返答に苦笑を漏らしながら、ジャンは再びバクシーの首筋に唇を寄せた。痕は残さないように、唇の内側の粘膜で柔らかくなぞるようにしながら首筋から顎へのラインを辿っていく。顎の先端にキスをすると、バクシーの長い舌が、ベロリ、ジャンの鼻先を舐めた。

「プ、ハハ

飼い主の顔を舐める犬みたいなそれに、ジャンは思わず吹き出して。それから左手でバクシーの高い鼻を摘まみ上げる。ふがっと声を上げるのを無視して、今度は耳の下へと続く顎の骨に沿うように。小さなリップ音を立てて幾度も口づけていく。辿り着いた先で柔らかな耳たぶを口に含み、そこに刺さったピアスを舌で舐め転がすようにしゃぶったり、耳孔の中に軽く息を吹きこんでやったり。その度に尻の下に敷かれたバクシーの凶器がビクビクと蠢くのを感じて、ジャンは喉を鳴らして笑った。
剥き出しの厚い胸板に手を置くと、そこは既にうっすらと汗をかいていて、常から体温の高い男ではあるが、いつにも増して熱くなっているようだった。バクシーの心臓が血液を送り出す音がジャンの掌に伝わってくる。その鼓動に合わせて上下する筋肉を、ジャンはうっとりとした表情で撫でた。男の身体に欲情する趣味などなかったというか、今でもそんな趣味はないが、それがバクシーのものであるならば話は別だった。谷間ができるほど厚みのある胸筋も、くっきりと浮かび上がった腹筋の隆起も。女の柔らかさとは真逆のその肉体が、恋人のものであるというだけでジャンを煽る。
両手で腹斜筋を撫で下ろし、バクシーの革ズボンに手をかけたジャンはそこで膝立ちになった。中に収められた性器がパンパンに張りつめているせいでなかなか開かないジッパーを相手に格闘することしばし。ようやく引きずり出されたバクシーのペニスは勢いよく跳ね上がり、硬い下腹部を打ちつけて破裂音を響かせた。

「ハハ、お前興奮しすぎだろ、バクシー」
「だってよぅ、ジャン、おめぇがスゲーエロいんだもんよぅ」

ジャンに言いつけられた通り、己を縛める糸を切ってしまわないよう、両脇に突いた腕をベッドの上に固定させたまま、バクシーが情けない声を上げる。これからされることへの期待に、先端からは先走りが溢れ出して竿の根元に生えた毛まで濡らしていた。

「涎、垂らしてやんの」

伸ばした舌を尿道にねじ込むようにして舐めてやると、バクシーの腹筋が大きく波打ち、ジャンの頭上からため息交じりの啼き声が降ってくる。凶器じみたカリ首の段差を舌で丁寧になぞり上げ、裏筋を舌先でくすぐってやると、先走りのカウパーがジャンの口の中に一気に溢れ出してくる。ジャンは鈴口に吸い付いてそのしょっぱい体液を啜った。

「ジャン、ジャンよぅ、これ、この糸、まだ解いちゃダメなんけ? 俺もおめぇに触りてぇッ」
「だぁめ。もうちっとだけ、いい子にしてられるだろ?」

先端を口に含んだまま上目遣いにそう言ったジャンに、無理だ、という言葉を飲み込んだバクシーは。この残酷な恋人にもう少しだけ付き合うしかなかった。神を信じない彼にとって、唯一絶対である男の言いつけなのだ。理性が働いているうちは、従う以外の選択肢がない。
何より、恋人に振り回されるこんな時間が、苦しくも愉しいものであったので。
彼が糸を切らずに最後まで耐えられたのかどうかは、二人だけが知っている。

このたびは 幣も取りあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに