腕の中に抱え込んだ温もりが、もぞり、動いたことでバクシーの意識は覚醒した。ジャンが――最愛の恋人が目を覚ましたのだと察して、顎の下にあるジャンの後頭部、寝ぐせのついた金色の髪の毛に鼻を埋めるようにしてキスをする。そのキスでバクシーも目覚めたことに気づいたジャンが、小さな吐息を漏らすように笑った。冷えた部屋の空気を揺らす暖かいそれに、たまらなくなったバクシーは。
「ン、何だよ、バクシー?」
背後から抱きすくめていたジャンの身体に半ば乗り上げるような形で身を乗り出して。バクシーがこめかみに口づけると、ジャンの頬にザラリとしたものが触れた。伸びかけた顎の髭が皮膚を擦るその感触に、ジャンはバクシーの胸を肘で押しやろうと動かす。
「バカ、髭当たって痛ぇって」
「そうなのけ? ラヴァーズのほっぺはゆんべと変わらずすべすべで気持ちいいです。ウフ」
本気で跳ね除けようとしているわけでもないジャンの抵抗などものともせず。バクシーは伸びた髭をわざと押し当てるように、ジャンに頬ずりをしてみせる。頬だけではなく、首筋や肩、鎖骨の辺りにまで擦りつけられるその薄く伸びた髭の感触に。ジャンは腰の辺りにソワソワとした熱が溜まっていくのを自覚していた。
本来は男を性愛の対象として見ていないはずなのに、バクシーの雄の部分を意識するたびにジャンの身体は熱を帯びてしまう。そのように作り替えられてしまったことを、ジャン自身が満更でもないと思ってしまっている。ということを、言われてはいないがバクシーも知っている。そんな二人なので。
「――あッ……」
首の後ろ、項の部分を顎髭が掠めた際に、ジャンの口からは反射のように艶めいた声が飛び出した。それを耳にした瞬間、ジャンの尻から背中にかけて押し当てられていたバクシーのペニスが――寝起きということもあって緩く勃ち上がっていたそれが、あっという間に硬度を増す。二人共に一糸纏わぬ全裸であったので、硬さも大きさも、帯びた熱さえも余さず伝えてくるそれに、ジャンのペニスも釣られて勃ち上がってしまった。
「ンフフー、ジャァンー」
髭を押し当てながら噛みつくように項にキスをしてくる恋人の声を聞きながら、ジャンは最近枕元に置くようになった時計に目をやり。起きなくてはならない時間にはまだ一時間くらい猶予があることを確認して。
「ん、そこ――痕、付けんなよ」
同じ場所に執拗にキスを落とす恋人に釘を刺したジャンは、自分の背中に押し当てられた熱へと手を伸ばし、既に濡れ始めていたその先端を誘うように撫でた。
◇ ◇ ◇
カサブランカの店内で、ツケのコーヒーを手に、六人のギャングたち――本日はマックスがイーサンに付き従っている――が顔を突き合わせていた。
「現状はこんなところですね。今後は、僕はニューヨークへ偵察に。ランドルフォはフィラデルフィアで――」
「砂の売り込みだろ。任せとけって」
「――あんまり調子に乗り過ぎないでよ。リッカルドはボス・イーサンの護衛でシカゴに」
「ああ、引き受けた」
「テシカガはデイバンの偵察をお願いするよ」
「かしこまり」
ヴァルターからの現状報告と今後の四人の予定について聞かされたジャンは、小さく頷いて。
「分かった。いつもサンキュな、ヴァルター」
「い、いえ、当然のことをしているまでですから!」
敬愛するボスからの労いの言葉に、ヴァルターは頬を紅潮させ、背中に定規でも入れられたかのように姿勢を正した。そんな部下の姿を、ジャンは可愛いなぁとでも言いたげに目を細めて見やり。彼らのボスの斜め後ろに控えているバクシーは、ヴァルターを胡乱げに眺めてはいたがあえて言葉を口にすることはなく。
「そんじゃ、解散前に昼メシでも食うか」
「それでは刀自リリーにお願いして参ります」
「僕も手伝うよ。ランディ、君もだよ」
「えっ? 俺っちも――って、あ、ハイ、手伝います」
「自分は取ってくる物があるので少し席を外させてもらいます」
ジャンの提案に四人のひよこ達がそれぞれに応じて席を立ち、散っていく。椅子から立ってそれを見送るジャンに、背後から近寄ってきたバクシーが耳打ちをした。
「なー、ジャァン。会議中にオメーのうなじ眺めてたらさっきの思い出してボッキしてきちゃった」
「――ッッアホかーー!!」
「オウフ!」
思わず長い脚に蹴りを食らわせた――どういう訳だかバクシーが受けたダメージよりも蹴った自分の足の方が痛いような気がして余計に腹立たしい――ジャンは。怒りの色を浮かべていたその表情を、すぐに別の色で染め変えてしまう。
「ぅ……さっきお前に出されたモンが中から出てきた……っ」
少しのつもりが盛り上がりすぎて、辛うじてシャワーで身体を流すことはしたものの。中に入った精液までは掻き出すことのできなかったジャンの体内に残された、バクシーのそれ。ジャンの動きに合わせて体内から溢れ出てきてしまった精液の感触に、ジャンは羞恥と情けなさで涙目になる。
「ジャ、ジャァン、そんな可愛い顔するのは二人っきりの時だけにしてくれよぅ。あいつらには見せちゃダメだべ」
「アホか! 誰のせいだと思ってんだ、この、アホ!!」
「オウフ!」
脚を動かすと更に中から出てきそうな気がしたので、代わりに振り上げた手で腹立ち紛れにバクシーの尻を平手打ちする。パシン、という小気味いい音に被さるバクシーの嬉しそうな声に余計に苛立ちを募らせるジャンを、バクシーが長い右腕で後ろから肩を抱え込むように抱き寄せ。
「悪かったってヴァ。ごめんって、機嫌直してくれよぅ、ジャアンー」
そんな二人の姿を目撃したテシカガは、もう少しだけ仲間達をキッチンに引き留めておこうと踵を返した。
*次ページは、省略されてた寝起きえち部分(追加で書いた)。