壁一面を埋め尽くす鏡の正面に立っていたジャンは、自分の後に続くようにして部屋に入ってくる男を鏡越しに見ていた。部屋に入って右手を向けば真っ先に視界に飛び込んでくるその大きな銀膜のガラス板に目を留めたバクシーは一瞬だけ足を停め、しかしすぐに動作を再開する。自分の方へと歩み寄ってくる大型の獣のような男の姿は見慣れたもののはずなのに、鏡越しに見ると何やらいつもとはどこかしらが異なっているように感じられるのが不思議だ、と。ジャンは取り留めのないことを考えた。
大きなストライドで近づいてくるバクシーの視線は鏡の中のジャンの顔に固定されている。そのことに気づいて軽く眉毛を上げたジャンの鼻腔を、覚えのある香りが掠めていった。その匂いの意味するところを――恋人が発情した気配を察知したジャンの下腹部が条件反射のようにずくりと疼く。
――鏡越しに二人の男の視線が絡んで縺れ合い、目には見えない熱量を周囲に撒き散らした。
「――――ッ……」
背後からぬるりと伸びてきた長い右腕がジャンの脇の下から腹にかけて蛇のように巻き付く。少しだけめくれ上がった黒いシャツの裾、そこからちらりと覗くジャンの素肌に触れるバクシーの掌は発熱しているのかと思わせるほどに熱かった。その熱さにジャンが無意識に身を震わせると、バクシーはニタリ、と口を歪めて笑う。
「なぁなぁ、ジャン。ここでヤッたらさぁ、オメエがどんな顔して俺に抱かれてるか、俺がどんなツラでオメエを抱いてるか、それから、オメエの中に俺が入り込んでるとこまで、なんもかんもぜーんぶ丸見えだナァ?」
「アホか、ンなもん――ッ」
別に見たくもないし見られたくもない、そう言いかけたジャンの言葉がバクシーの手の動きで遮られる。シャツの裾から無遠慮に入り込んできた熱い掌は、下腹部に刻まれた刺青を愛おし気に撫で回してから腹筋をなぞるように下から上へと、黒い生地を道連れに這い上がっていた。ジャンの白い素肌や硬く引き締まった腹筋、その周辺の皮膚に刻まれた様々な傷痕。シャツに隠されていたそれらが徐々に曝け出され、鏡に映し出されていく。それを見つめる恋人の視線に、そこに含まれる熱に、皮膚の表面を撫で回されているだけだというのに内臓の奥深くまで侵されたような気分になったジャンは。小さく震える唇から弱々しい声で、問いを漏らした。
「なぁ……ほんとにここで、やんの?」
「――やりてぇ。俺に犯されてるとこをこの鏡に全部映し出されて、よがって乱れるジャンを見てぇ」
襟元から覗く白い項にべたりと押し当てた舌を耳のすぐ裏側まで這わせるようにして舐め上げたバクシーは、ジャンの耳孔に熱い吐息と共に情欲まみれの囁きを吹き込む。ついに胸の辺りまでめくり上げられてしまったシャツの下からわずかに顔を見せる小さな突起を指で摘まれて、ジャンは抗議の声を思わず上げた。
「おい、そこはあんまり――ッ」
「うんうん、ジャン、乳首好きだもんナァ? もっとちゃんと触ってやっからこのシャツ、脱いじまお?」
「バッ、そうじゃねぇだろうがぁ」
器用な指先が片手でシャツのボタンをプツプツと続けざまに外して前身頃をはだけさせ、露わになった肌を、鏡越しにジャンに見せつけるように撫で回す。鏡の中、己の身体の上を蛇のように這い回る手が、再び乳首を捕らえて摘まみ上げるのを見たジャンは、たまらず声を上げて腰を震わせた。
「アッ、あ、あぅ……」
「こっちももう、涎垂らしてらァ」
恋人の右手の動きにジャンが気を取られているうちに、ジャンのボトムを抜け目なく寛げていた左手が下着の布地越しに亀頭をやんわりと掌で撫で回す。濡れた布がジャンの性器に貼りついて、そこから溢れ出す液体で更に染みを広げていった。それが鏡越しに見て取れて、ジャンは羞恥と――性感帯を刺激される快感に熱いため息を零す。
「やめ、ろってぇ……パンツ、汚れっからぁ……」
このままバクシーの好きなようにさせていたら己の先走りで濡れそぼった下着を履いて帰るか、あるいはそれを脱ぎ捨ててノーパンで帰る羽目になる。そう感じたジャンが喘ぎ混じりの不平を口にすると、バクシーは亀頭を撫で回す掌の動きを停めた。だが、ジャンが安堵の息を吐く暇もなく、今度は長い爪が下着の生地を引っ掛けるようにしながら尿道の入り口をくすぐりはじめる。それと同時に、ジャンの腰の後ろの辺りに硬い棍棒のようなものが押し当てられた。それが何であるかを見るまでもなく理解したジャンは、知らずうち、口の中に溢れ出した唾液をごくりと飲み下す。
「なぁ、ジャンの中に俺のこれ、挿れさせてくれよぅ」
「んん……お前の、すっげー硬ぇし……服越しなのに熱い……」
鏡越しに浴びせられる視線と背中に押し当てられたペニス、耳朶をしゃぶるようにしながら注ぎ込まれる囁き。バクシーの発する熱に煽られ、それに浮かされたように瞳を潤ませて譫言のように呟くジャンに。
「おまえのこともちゃんと気持ちよくさせっからさぁ、頼むよ。な? な?」
耳の縁をなぞっていた舌がぬるりと首筋を這い下りて首の付け根に到達する。そこに浮き出た筋肉の筋を、バクシーは犬歯で柔く甘噛みした。
「――ッ、あ、あぁ……」
皮膚に食い込む鋭利な牙の感触がもたらした快感のせいでジャンの身体から力が抜ける。膝からかくりと崩れ落ちかけたジャンは、目の前の鏡に顔から突っ込みそうな錯覚を覚えた。背後から蛇のように巻き付けられた恋人の腕にがっちりと抱きかかえられている現状において、それが単なる錯覚であることは明らかだったが、快感に侵されたジャンの脳はそこまで冷静な判断を下してはくれない。倒れ込む身体を支えようと反射的に伸びた両腕が目の前の鏡に押し当てられた。
「ん、あ、はぁ……ッ」
相対的に背後へ突き出す格好になった臀部に押し当てられた硬いペニスが、性行為の最中を想起させるように前後に動かされる。その間も、バクシーの両の手は変わらずにジャンの乳首と尿道への責めを緩めてはおらず。
「なぁ、いいって、言ってくれよぅ、ジャァン」
「んっ、ふ、あ、あぁ――ッ、いい、いい、からぁ、乳首はもうやめ、ろってぇ――ッ」
縋るように鏡面に貼り付いてビクビクと痙攣しながら反射的に口走った直後、ジャンの身体は不意に解放された。背後から自分を縛め責め立てていた逞しい腕が――熱い体温が自分から離れていくのに追い縋りたい気持ちを抱えたまま、思うように動いてくれない身体の中を駆け巡る熱を持て余し、ジャンは悩まし気な吐息で鏡を曇らせる。
うっすらと曇った鏡越しに恋人を見つめるジャンの視界の中で、バクシーは部屋の片隅にポツンと取り残されていた――恐らくは元の住人が不要物と判断して打ち捨てていった――オットマンをひょいと持ち上げた。それを持ってジャンの元へと戻ってきた男は、その革張りの座椅子をジャンのすぐ後ろに降ろし。それから、未だに鏡に貼り付いているジャンへと視線を流してにんまりと笑った。
「ほれ、ジャン、こっち来いよ」
「ん、ふ……」
脇の下に差し入れた右腕一本で力の抜けた恋人の身体を軽々と持ち上げたバクシーは、設置したオットマンの座面に腰を下ろす。されるがままのジャンの身体は、椅子に座った男の硬い太腿の上に着地していた。いつの間にやら膝の辺りまでずり落ちてしまっていたズボンから顔を覗かせている下着に焦らすような手つきで指を這わせたバクシーは。
「ワーオ、びっちょびちょ。こりゃ帰りはノーパンですかねェ」
「バッカ……誰のせいだと思って……」
「ンッフフー。俺のせい、だろぉ? ちゃーんと責任取るからよ。な、あんよ、自分で持ち上げられるぅ?」
「ん……」
金髪の後頭部に何度も口づけながら尋ねると、ジャンは小さく呻くように応じてゆっくりと自分の足を持ち上げる。恋人の足の先へと長い腕を伸ばしたバクシーは、ジャンの履いている靴をまずは脱がせた。くるぶしの骨をなぞるように靴下を剥いでいくと、腕の中にいるジャンの身体が小さく震えるのについつい口元が緩んでしまう。
(ジャンはくるぶしの特に内っ側が弱ぇんだよなァ。かーわいい)
剥き出しになった白い足首に浮き出ている骨を指の腹で何度もなぞると、その度にジャンは身体を震わせて口から小さな喘ぎを零し、もどかしそうに腰を揺すった。その柔らかい尻の下に敷かれているバクシーのペニスも、ジャンの腰の動きに合わせるようにして革ズボンの中でビクビクと跳ね回る。
「ジャンは足まで可愛いなぁ……この白い皮膚に食いつきてぇ……ちっちゃいあんよの指も口に含んでしゃぶりてぇなぁ……」
「アホ、俺の足は別にちっちゃくねぇ……テメェを基準にすん、な――ッ」
ジャンの右の足の中指と薬指の間。そこに差し入れられたバクシーの手指が、指の股の皮膚を撫でるようにゆっくりと抜き差しされて、ジャンの言葉を途切れさせた。
「こーこ。ジャンは足の指の間も性感帯だけどさぁ、そン中でもここが特に感じるんだよなぁ?」
「バッ……あ、ふ、ぁ……クソ、また、漏れちまう……」
湿った布地の中でジャンのペニスがビクリと震えるのがバクシーの目に映る。新たに漏れ出たカウパーが更に下着の染みを広げていくのに、ジャンが不快そうな声を上げた。
「も、いい加減、パンツ、脱がせろ、ってぇ……」
「分かった。いいぜェ」
「クッソこのやろ……嬉しそうな声出しやがって……」
声だけではない、視線を前方へと向ければ鏡に映し出された顔もニタニタといやらしく笑み崩れている。自分の口から「脱がせてくれ」という言葉が出てくるのを待ち構えてわざと焦らしていたのだろうと、ジャンは鏡の中の恋人の顔を睨みつけた。
鏡越しに飛んできたジャンの恨めし気な視線を受け止めたバクシーは、にんまりと目を細めてそれに笑い返し。ジャンの履いている下着の前側のゴムに指を引っ掛けると、無造作にずるりと引き下ろす。濡れた布地と性器が擦れ合う刺激にジャンは喘ぐように呼吸を乱した。
「ぅ、あ――ッ」
「やっべぇ、めちゃめちゃ糸引いてる。クッソえろいわぁ……」
「バッカやろ……」
脱力したジャンは背後のバクシーを背もたれ代わりに寄りかかり、頭上にある恋人の顔を睨み上げる。うっすらと涙を滲ませる目元にバクシーはキスを落としながら、今度はジャンの下着の後ろ側に右手を差し入れ、大きな掌で揉むように尻を撫でさすった。
「あー、ジャンの生尻たまんねぇ、やーらけー」
「ん……ふっ」
バクシーの手首に引っ掛けられた下着は、尻を撫で下ろす手の動きに合わせて一緒に引き下げられ。ジャンの性器との間に透明な粘液の糸を引きながら太腿の上を滑り降り、膝を通り抜けて脛の位置で、かろうじてそこにまだ留まっていたジャンのズボンと合流を果たした。バクシーは左腕をジャンの両膝の裏へと回し、太腿と胴体を折り畳むようにして抱きかかえ。右手で下着とズボンをまとめて掴むと、ジャンの足の先からそれを抜き取ってしまう。
「ナァ、ジャン。鏡見てみろよ」
見上げるジャンの視界の中で、ニイ、と笑ったバクシーが二人の前に置かれている鏡へと視線を流す。それに釣られるように視線を移動させたジャンの目に、あられもない己の姿が飛び込んできた。ほとんど脱げかけのシャツを腕に引っ掛けている以外は何も纏っていないほぼ全裸の自分が、男の膝の上に抱かれて脚を抱え込まれ、まるで襁褓を交換される赤ん坊のように局部を曝け出しているその様に、羞恥心が込み上げる。
「や……ッ」
「ダーメだってぇ。ちゃんと全部見せてくれよぅ」
隠したい、という衝動に突き動かされて反射的に動かしたジャンの手足は、背後から回されたバクシーの腕に阻まれ、押さえつけられてしまった。執拗な愛撫のせいで力が抜けきっていたとはいえ、右腕一本であっさり拘束されてしまった事実にジャンは、悔しさに歯噛みし。だが、その股間の男性器はこれから恋人に与えられる刺激を待ちわびて期待に震えてますます涎を溢れさせ。
「あー、すーっげぇ、ジャンの匂いがする……たまんねぇ……」
「ん、ふ、嗅ぐ、なぁ……」
バクシーが腕の中に抱き込んだジャンの後頭部に顎を擦りつけながら、スン、と鼻を鳴らして鼻から空気を吸い込む。鼻腔いっぱいに広がるジャンの匂い。首筋から立ち上る汗の甘酸っぱい香りや、反り返った性器から溢れ出る先走りの独特の臭気。それから、今朝、出かける前に慌ただしく身体を重ねた時に使った潤滑剤の香料とバクシーの精液――ジャンの体内の奥に残されたそれが、綻び始めたアヌスの隙間から香っているのを嗅ぎ取って。高まる興奮に釣られて口の中に溢れ出た涎をたっぷりと纏わせた舌で、バクシーはジャンの項をべったりと舐め上げる。
「なぁ、見てくれよ、ジャン。ジャンのココ、もう俺を欲しがって開き始めてる」
「あ、あぁ……、ん……ッ」
ジャンの太腿の裏側を押さえていた右手がつぅっと滑るように動いてアヌスの縁に辿り着き。その入口を左右から挟むように長い人差し指と中指がそっと宛がわれた。ただそれだけの刺激で、ジャンのアヌスはもどかし気にひくつき、小さく口を開いては閉じる動きを繰り返す。その様子は余すことなく目の前の大きな鏡に映し出され。
「ジャンのケツの穴、パクパク開いて俺のチンポが欲しい欲しいっておねだりしてんの、自分でも見えんだろぉ?」
「も……そういうこと、言う、なぁ……」
羞恥の声を上げつつも、鏡の中、開閉を繰り返す己の排泄器官の浅ましい姿から視線を逸らすことのできないジャンの目に。開く度に内側の赤い粘膜を覗かせるその穴から、薄い白色に濁った粘液がとろりと溢れ出る様子が映り込む。穴の縁からゆっくりと尻の方へ流れていく粘液が肌を嬲る感触と、鏡越しに見えるその淫靡な光景に、ジャンはぶるりと身体を震わせて喘いだ。
「あ、やぁ……ッ」
「あー、俺が今朝ジャンの中に出したザーメン、出てきちまったなぁ」
「時間、ねぇから……つったのに、お前が勝手に……ッ」
今朝、寝起きのキスに熱が入りすぎてしまった二人は、時間に余裕がないことを分かっていたのに欲に負けて身体を重ねてしまった。処理をしている時間はないから中には出すな、と。そうジャンが口走った時には、もう既に遅く。身体の奥深く、S状結腸の入口付近で思うさま解放されたバクシーの欲情の結晶を体内に抱え込んだままここまでやってきたジャンは。短い交わりだけでは解消しきれなかった燻りも、同時に抱え込み続けていた、ジャンは。
「なぁ、バクシー、もう、挿れて、お前のチンポ、挿れて――ッ」
自分を抱きかかえて拘束している恋人の逞しい肩に後頭部を擦りつけるように顎を仰け反らせ、喘ぎ混じりの懇願を口にした。目の前に差し出された恋人の頭頂部にキスを落としながら、バクシーがうっとりとしたような吐息を零す。
「――俺も、挿れてェ……ジャンの中にぶち込みてぇ」
「ん、あぁ……ッ」
自分の髪の毛を揺らし、頭皮をなぞっていく熱い吐息に――それに込められた情欲に煽られてジャンの頭の中に白い火花が散った。脳イキの快感にビクビクと痙攣するジャンの身体を、その膝裏に回していた左腕で軽く持ち上げ。バクシーは手早く己のボトムを寛げると、とうの昔に完勃ちして先走りを漏らしていた性器を取り出す。
「すっげぇびっちょびちょ……おめぇも糸、引いてんじゃん……」
鏡越しにもはっきり見て取れるほどの濡れ方に、思わずジャンが上げた声は興奮で蕩けきっていた。それに煽られるようにバクシーのペニスがビクンと大きく跳ね、すぐ上にあるジャンの尻をびたんと打ちつける。
「フ、フフ……俺のケツ、お前のチンポに狙われちまってる……」
「あぁ……ジャン……すっげーエロいわぁ……」
物欲しげに開閉を繰り返すアヌスと自分の亀頭が軽く触れ合う形になるよう、バクシーはジャンの身体を両手で抱え直し。そうして抱えた恋人の身体を前後に軽く揺らして、ジャンの体内から溢れ出した粘液と自分の先走りをぬるぬると混ぜ合わせた。穴の縁をぬるついた亀頭で擦られるたびにジャンが小さな喘ぎ声を漏らす。
「ジャン、ジャン……可愛い……大好き、愛してる……」
「うるせぇ、このヘチマ野郎……焦らすなっつーの」
不満そうな声を出して口を尖らせたジャンは、下半身に伸ばした両手で自分の尻肉を掴むように割り開いた。粘液で濡れそぼったアヌスの中の粘膜を鏡越しに見せつけるようなポーズを取ったまま。鏡の中のジャンは、バクシーを挑発するような笑みを浮かべる。
「なぁ、お前のデカチンコ、早くくれよ……」
「――クッソぉ……エロすぎんだろうが――ッ」
「――!! あ、は、ぁ、き、たぁ……ッ」
ジャンのアヌスへ触れるか触れないかの位置に宛がわれていたペニスが一気に挿入された。信じられないほどに太い亀頭が何の抵抗もなくずるりと入り込み、蕩けきったジャンの中を蹂躙していく。
「あー、すっげぇ、ふわふわのとろっとろ……やっベぇ、気持ちよすぎるワァ……」
「あ、あ、ア、クッソ、かってぇ……朝、出したばっかの、くせ、にぃ……」
「ごめんなぁ……ジャンが魅力的すぎて出しても出してもすーぐ装填されちまうんだわぁ」
「ん、ん、この、バカちんこ……ッ」
「あー、すっげぇ……俺のがジャンの中にずっぽり入っちまってンの、全部見えちまってるぜぇ。ナァ、ジャンも見てみろってぇ」
「バッカ、んなの最初っから見えてる、っつーの……」
素っ気なく応じながらも、鏡の中に映し出される己の痴態を目にしたジャンは興奮と羞恥に全身を赤らめ、今にも射精せんばかりにペニスをひくつかせた。それと同時に、後ろの孔も一緒にひくついて銜え込んだバクシーのペニスを食い締める。ジャンの奥深いところにある襞に亀頭の先端をしゃぶるように刺激されて、バクシーは歯を食い縛りながら呻き声を上げた。
「あー……くっそ、たまんねぇ……」
そう小さく呟きを零したバクシーの右腕がジャンの身体から離れていく。力のありあまっている恋人が左腕一本でも自分一人を支えるくらいは難なくできることを知っているジャンは、支えが片方なくなったことを不安に感じたりはしなかったが。離れていった熱を追うように後ろ手に腕を回し、恋人の後頭部を抱え込んで引き寄せた。
「何だよぅ、ジャァン。もっとくっつけってぇ?」
嬉しげな声を上げたバクシーは目の前に差し出された恋人の首筋に甘く歯を立て、皮膚の表面を小さく吸い上げる。ちぅ、という可愛らしい音を立てて吸われる感触に、ジャンは腰と背中を反らして大きく喘いだ。
「ん、あ、痕、は――ッ」
「痕はつけねぇ、ってヴァ」
そう言うと首筋を舐めはじめたバクシーの長い舌の動きに、ジャンは目を伏せて快感をやり過ごす。ジャンの肌を味わうように執拗にねっとりと舐め回す舌が生み出すじゅるじゅるという水音に鼓膜を犯されていたジャンは。
――カシャッ
不意に辺りに響いたこの場に相応しくない音に目を見開いた。真っ先に視界に飛び込んでくる正面の鏡に向けられたジャンの視線が、自分をじっと見つめる恋人の視線と絡み合う。身体の内側まで暴こうとするかのような熱いそれから逃れるように目線をずらしたところで、バクシーが右手に構えたモノに――一台のカメラの存在に、ジャンはようやく気づいた。
――カシャ
ジャンがカメラのレンズを見つめる瞬間を狙っていたかのように、再びシャッターが切られる。
「――あ? え、な、に――」
快感に侵されたジャンの脳は、平常時であれば一目瞭然のはずの状況に思考がついてゆかず。譫言のような言葉を漏らすジャンの視界の中で、バクシーは器用に片手だけでフィルムを巻き取って、再びカメラを構える。
「鏡の中で俺に犯されてるジャン、めっちゃエロくて最高。どこもかしこも丸見えでサァ、こんなん、記録に残しとかなきゃもったいねぇべ?」
「の、こす――って……あ、ふ――ッ」
抱え込んでいたジャンの左の太腿をぐいと持ち上げた丸太のような腕が、その先に繋がっている手をジャンのペニスに蛇のように伸ばし。先走りでぬるぬるになっているそれを容赦なく扱き上げた。
「あ、そんなん、されたら、出る、出る――ッ」
「イッてくれよぅ、ジャン。鏡に向かってザー汁びゅっびゅ出すとこ、俺に見せてくれよぅ」
自分を見つめる、発火しそうに熱い恋人の視線と。シャッターチャンスを狙いすましているカメラのレンズ。その二つに煽られるように、ジャンの体内で熱が膨れ上がっていく。
「あ、あ、いく、出ちまう、からぁ」
「出せよ。溜め込んだザーメン、全部出せ。俺に犯されてイッちまうサイッコーにドスケベな顔、見せろよ」
「あ、あ、あ――ッ」
駄目押しのように首筋に歯を立てられた次の瞬間、ジャンは視界に真っ白い火花のようなものが飛び散るのを感じながら射精していた。その瞬間を狙いすましたかのように、バクシーがシャッターを切る。
――カシャッ
シャッター音に鼓膜を犯されながら、ジャンは絶頂の余韻に身体を震わせた。自分の体内に埋め込まれている恋人の性器が、内側を限界まで押し広げるように膨張するのを感じて、相手もまた絶頂したことを悟る。だが、また中に出されてしまったことを咎めるだけの理性を取り戻していなかったジャンは、大きく胸を上下させて喘ぐことしかできず。
「は、は、は――ッ」
息を整えようと浅い呼吸を繰り返す恋人の首筋に浮き出た汗をねろりと舐め上げたバクシーは。今朝も一度出しているのに、そのことを感じさせないほどに大量に放出されたジャンの精液がべったりと貼りついた鏡面を眺めながら。
――カシャッ
快感の余韻で朦朧としている恋人の蕩けきった表情を。射精してもまだなお萎えていない互いのペニスを。自分を銜え込んでひくつくジャンのアヌスを。余すことなく写し取ろうとシャッターを切った。