刑務作業をサボってフラフラとムショの中をうろついていた俺は、いきなり後ろから伸びてきた手に肩を掴まれた。
「う、わ――」
驚きに上げかけた叫び声は大きな掌に塞がれて遮られてしまう。つん、と鼻を刺す、覚えのある香り。
(――血の匂い、だ)
理解したとたん、心臓がどきんと大きく跳ね上がった。
「ハハーッ、すーっげぇ心臓の音じゃねぇの。ンだよ金髪わんわん、ビビッってんのかよ?」
「――バクシー……」
聞き間違いようのない特徴的な声に、俺は全身に漲った緊張を少しだけ解いた。完全に解ききらねぇのは、まぁ、こいつが頭っから信用できるような男じゃねぇから。
(お互い様なんだろうケド)
「なぁ、ジャンカルロ。やらせろよ」
長い腕の中にすっぽりと俺の身体を抱き込んだバクシーの、濡れた声が鼓膜をくすぐった。チラ、と横目で見上げると、興奮の色を浮かべた瞳が俺の姿を映して期待に輝く。不自然に長い舌が、チロリと唇を舐めるのを見て、俺の肚も決まった。
(とにかく、ここはマズイ)
サボっていた立場上、人目のない場所を選んではいたが、あくまでも警戒していたのは看守の目だ。他の囚人連中は基本的に作業中のはずだが、中には今の俺たちと同様に、サボっている奴もいるかもしれない。コイツがGDの幹部だとバレていなくても俺たちが知り合いだと知られるのはありがたくなかった。伊達に何度も出たり入ったりを繰り返してるわけじゃない、頭の中では既にいくつか、誰にも見咎められずに事を済ませられそうな場所の候補が上がっている。
「やんのはかまわねぇから、場所移動しようぜ」
あまり焦らすとこの場で事に及ばれそうなので、俺はすぐに候補を絞ると奴の太い腕を掴んで促した。
案外大人しく後をついてきたバクシーの無駄にでかい身体をリネン室の中へと押し込む。ドアを閉めたとたん、長い腕を俺のウエストに絡めるようにして、バクシーが腰を押し付けてきた。囚人服の中で勃ち上がった硬い棒状のナニの先端が俺の背中をゴリゴリと抉るように幾度もなぞる。
(ワーオ、フル勃起)
バクシーの身体からは、相変わらず血の匂いがしていた。多分、餌食になった不幸な獲物はこの間のGDのスキンヘッド野郎に違いない。
(殺っちまった、か?)
相手の姿を見ていない以上はっきりとしたことはわからないが、この興奮の度合いから判断する限りでは、良くても瀕死状態ってとこだろうと思う。
(こいつが殺ったってのが、バレなきゃいーんだケド)
そんな下手を打つような男じゃないのはわかってるけど、CR:5の幹部連中が雁首そろえてるこのマジソン監獄では、用心しすぎるぐらいでちょうどいいか、それでもまだ足りないぐらいだ。そんなことを考えてるうちに、俺の身体は押し倒されていた。
でかい掌が俺の股間を撫でさすった。
「んだよ、フニャフニャじゃねぇかよ」
「今までの流れで俺がいきなり勃起してたらおかしくね?」
役立たずのフニャマラ野郎め、と言わんばかりの不満そうな声に、こちらにだって言い分はあるのだと憤慨させられる。
(俺には興奮できる要素が全くなかったっつーの!)
俺の唱えた異議に納得したのか、それとも時間が惜しいと思ったのか、バクシーは細い眉をギュッとしかめただけでそれ以上文句を言うことはせず、俺のズボンをずるっと下げた。解放された可愛い――自分視点の感想であって、サイズの話じゃあない――俺の息子を出迎えたのは、狼みたいな赤いお口だった。
相手が相手なだけに、食われてしまうのではないか、と一瞬だけ本気で怯えたのは内緒の話だ。唾液にまみれた熱い舌が竿に巻きつくように絡められる。常々思っていることだが、こいつの舌はいったいどうなってるんだ。長さといい、形状といい、人類の物とは思えない。
「つーか、即フェラって、なぁ……」
口を衝いて出た言葉に、バクシーが視線を上げて俺の顔を見た。
「なんか不満なのけ?」
「不満はねぇけど。俺、相変わらず風呂入ってねぇからさ」
俺みたいなブロンド美人ちゃんが男だらけのムショの中で小綺麗にしてたらどんな目に遭うことか。最後にシャワーを浴びた日の記憶なんてもう遠い過去の話だ。
「バァーカ、チンコなんざ洗ってあろうがなかろうが、勃起して硬くなりゃそれでいいだろうがよ」
「ア、ソウ……」
俺の繊細な気遣いも、床に零れたスープを平気で飲むような男には全く意味がなかったようで、鼻で笑い飛ばされる。バクシーはおしゃぶりを再開しようと口を開け――もう一度俺の顔を見た。
「俺は早くテメェの勃起チンコをケツマンコに突っ込みてぇんだよ。つまんねぇ気ぃ配ってる暇があるんなら、テメェのご自慢の息子をさっさとおっ勃てろよなぁ」
「ハイハイ……」
バクシー相手に息子自慢をした記憶は全くないが、ここは貧相なイチモツだと言われずに済んだことを喜んでおくべきだろうか。
バクシーのフェラは技巧的とは言えない――言葉通り、『勃たせる』ことだけが目的のような強引なバキュームフェラは、むしろ暴力的と表現した方が正しいかもしれない――が、それなりに慣れを感じさせることに俺はちょっとだけ驚いた。
(他人に奉仕する姿なんて欠片も想像つかねぇのに、意外だよなぁ)
そんなことを考えている間に、俺の息子もすっかり臨戦態勢になっていた。硬さを確かめるように上下の唇でギュッと強く挟みつけられる。
「ン、フ……」
鼻から息を漏らしながら銜えていたペニスを口から出したバクシーは、手応えに満足したのか、嬉しそうに笑いながら長い舌で自分の唇をべろりと舐めた。
「ハハーッ、顔に似合わず立派な持ちモンじゃねぇの?」
「そら、どーも」
自分の体格から考えればそれなりのサイズを保持している自負はあるし、褒め言葉は素直に受け取りたいんだが、囚人服を押し上げている奴のペニスの方がどう見たって遥かにデカい。
(俺が突っ込まれる側じゃなくってマジ助かるワ)
俺の身体をまたいだまま膝立ちになると、バクシーがずるり、と自分のズボンをずり下げた。
「ワーオ……」
跳ねるように勢いよく飛び出した奴のペニスに、俺の口からは思わず感嘆の声が上がる。
(前言撤回。突っ込まれなくって助かるってか……命拾いしたわ)
馬並み、ってのはこういうのを言うんだろう。女だったらちょっとばかり痛いのを我慢して、「あぁーん壊れちゃう」とでも言ってりゃいいかもしれないが、ケツにこんなもんをぶち込まれた日には当分トイレに行けなくなることは確実だ。まして、俺は処女なのだ。最初の相手は普通サイズに限る。
(つーか男だし、処女喪失とかしなくてもかまわねぇな)
「う、わ……ッ」
アホなことを考えている間に、いきなりズルッと銜え込まれた。仰向けに寝転がる俺の上に腰を落としたバクシーのアヌスは、まるで女のアソコみたいにあっさりと俺のペニスを呑み込んでみせた。入り口が柔らかくなってるだけじゃなく、奥の方までぐっしょり濡れて緩んでいるのがわかる。
「ア、ハァ……」
仰け反った奴の口から満足そうな、ため息とも嬌声ともつかない声が漏れ出る。
「さっきの、野郎はよォ、中途半端なとこで逝きやがったから、な……こっちはまだまだ、満足して、ねぇってのに、よッ……」
どうやらさっきまで別の誰かとお楽しみだったらしいが。
(なんか、不穏じゃね?)
「逝っちゃった、って……」
「アァ? あー、ちょっと血ィ出させすぎたみてーでなァ、気づいたら冷たくなってた」
「ちょっと待て!」
つまり何か、ついさっきまで死人が突っ込んでた穴に、今現在俺が突っ込んでるってことになるのか。
「あ、テメ、何萎えてやがる!」
「そんなん聞いたら萎えるっての!」
じたばたと暴れる俺を上から見下ろしてくる、色の薄い瞳が細められた。
「役に立たなかったらテメェも逝かせちまうぜ、金髪わんわんちゅわーん?」
その目に浮かんだ酷薄そうな光を見たとたん、俺の身体の中を寒気に似た何かが駆け抜ける。それは恐怖と紙一重の、だけど、限りなく快感に近いものだった。
俺のペニスが勢いを取り戻したのを腹の奥で感じたんだろう、前歯を剥き出すようにしてバクシーが笑う。
「そーそ、やりゃあできんじゃねーのよ」
そう言って、俺のペニスを銜え込んだケツの穴に力を込めて、腰を捻る。
「ちょ、バカ、ちぎれるってぇの」
「そんなヤワなモンならこのまンまちぎってやるよ」
さすがに本気でちぎれるとは思わないけど、馬鹿でかい身体に上から体重をかけられてる現状で、無茶をされれば折れるんじゃないのかって気はする。腰から上ってくる快感と、肚の底から湧き上がってくる危機感。だけど俺のペニスは萎えるどころか、相乗効果でガチンガチンだ。今ならきっと、釘を打てる。
なんとか主導権を奪えないかと足掻いてみたが、体勢の悪さもあって、諦めざるをえない、という結論に至った。
(あー、もーいーや。気持ちいーことは気持ちいーんだし、サ)
腹の上で踊るバクシーを投げやりな気分のまま眺めていると、普段は囚人服の下に隠されている腰が露わになってるのが目についた。骸骨の骨組みのラインを辿るように、這わせた指を撫で下ろす。躍る骸骨の足の先、ちょうど奴の腰骨の辺りに指が触れた時、俺の上に乗っかっている身体がぶるり、と震えた。同時に、ケツの穴がぎゅうぎゅうと、銜え込んだ俺のペニスを締め付けてくる。
「アッ、……」
妙に悩ましい声が頭上から零れてきた。
「ナニ、タトゥーが感じんのけ?」
「ハッ、おめーだって、そーダロ?」
一段と良くなった反応に茶化す口調で問いかけると、バクシーが俺の上着の裾をめくって右腰に触れてくる。硬い指先で腰骨を抉るように撫でられると、そこからゾクゾクするような快感が込み上げてきた。
「バッ……そこ、反則――ッ」
俺の腰に刻まれた裏切りの証――GDの刺青を、バクシーの野郎は愛しむような手つきでゆっくりと辿っていく。このイカレた男が他人にそんな風に触れることができるってことも驚きだが、それ以上に、背徳の象徴を刺激されてるって事実にいきそうなぐらい感じちまって、俺は奴の腰に爪を立ててこらえた。
快感に歪む視界の中で、奴の腹筋が呼吸に合わせてゆっくりと膨らんでは、引っ込む。息を吐くとくっきりと浮き出る綺麗に割れた腹筋の上には薄く汗が滲んで、ほの暗いリネン室の中で光ってるのが妙にエロい。その腹筋に貼りつかんばかりにガン勃ち状態のペニスの先端は、漏らしたみたいにびしょ濡れだ。
興奮のせいか普通よりも開き気味に見える尿道口を眺めていると、内側から透明の液体がぷっくりと盛り上がってくるのがわかる。表面張力の限界を超えたとたんにとろりと崩れ落ちてくるその液体が、奴の腰の動きに合わせて俺の腹の上に飛び散った。そうして、奥からはまた新たな先走りの液が滲んでくる。この調子なら、奴の限界だってそう遠くないはずだ。その考えに力を得た俺は、奴の腰に手を宛てると、狙いをつけて下から思いきり突き上げてやった。
「ッア……」
気持ちいいんだか驚いてんだか微妙に判断のつけづらい声が上がったが、そこは気にせず、今度はでかい身体を持ち上げるようにして腰を引く。
(さすがに重てぇわ……)
奴との体格差を考えれば、下から持ち上げるのはなかなかの重労働だが、そこは男の矜持で乗り越える。ギリギリまで引き抜くと、亀頭のエラが奴のアヌスの縁に引っかかったのが感触でわかった。
「ア、それ、ヤベぇ……」
切羽詰まったような声を聞いて、俺はチロリと唇を舐めた。両手で尻の肉をわし掴みにして、ケツの割れ目を左右に広げると、さっきと同じように下から思いっきり突き上げる。狭い粘膜の壁を亀頭で無理やり押し広げていく感覚。
「ア、当たって、る――」
押し殺した悲鳴みたいなバクシーの嬌声。
(あー、俺も、ヤベェわ……)
「そろそろ、イキ、そー、なんだけど」
絞り出した声は我ながら情けないぐらい切羽詰まった響きを帯びていたが、相手もそれを揶揄するほどの余裕はないようで、バクシーは長い舌をだらりと垂らして犬みたいに喘ぎながら応じてきた。
「俺、も、イケそー、だぜェ」
舌の上で光るピアスを、キスできたら噛みちぎってやりてぇな、と、ふと思った。俺の突き上げに合わせて、奴も上から腰を打ちつけてくる。湿った穴を硬い棒でかき回す音と、引き締まった尻の肉が俺の腰骨にぶつかる音とが激しい連弾を奏でる。急激に締めつけが厳しくなったように思えるのは、俺の方が限界まで膨れあがってるせいなのかもしれない。頭上で、小さく笑う気配が、した。
「いいぜ、来いよォ」
「んっ、なんだよ、ずいぶんヨユー、じゃん?」
こっちはもうすっかり限界に来ていて、抑えようにも口から鼻から息が漏れてまともな言葉になってないってのに、と悔しい気分で唇を尖らすと、バクシーが吠えるような声で応じてくる。
「バァーカ、俺も、イキそーなンだってェ、のッ」
「そんじゃ、遠慮なく」
どうせ互いの感じる場所同士を擦りつけ合ってんのがどっちにとっても一番気持ちいいのだから、あとはひたすら自分が出すことだけを考えて、熱い粘膜の壁を亀頭で強く抉り上げる。
「ア、イイ、イイ――すげ、ぇ……ッ」
感極まったような声と同時に、強烈な締めつけが襲ってきた。下腹部で出口を求めて彷徨っていた快感が、一気に膨れ上がって爆発する。バクシーのケツの奥の奥まで突き込んで、思いきりぶちまけた。目の前で揺れるバクシーの竿の先端からも、白く濁った液体がとろりと溢れ出す。扱くどころか指一本触れた記憶もないのにちゃんといったのか、と妙に感心しちまった。
俺の腹に両手をついた姿勢で天を仰ぐと、バクシーは猫のように背中を逸らしてぶるり、と小さく身を震わせる。
「ん、ァァ……」
かすれた、ごくごく小さな声と一緒に、奴の尿道口からは新たな精液が溢れ出た。男に興奮する趣味はなかったはずだが、その光景を見守っていた俺の喉が、ごくりと大きく鳴る。頭上にある汗に濡れた喉仏を眺めていると、下腹部がずくりと疼くのを感じた。
「――あ」
「……ククッ」
まだ熱い粘膜の中に銜えこまれたままの俺のペニスが硬さを取り戻しつつあることに気づいたんだろう、俺が声を上げるのとほぼ同時に、バクシーの喉からも小さくくぐもった笑い声が漏れ聞こえてきた。反らしていた背を起こして俺の顔を見下ろすと、長い舌でべろりと自分の唇を舐め回しながら、バクシーはにんまりと笑みを浮かべる。
「まだまだイケそーだナァ、わんわんちゃん?」
そう言うと、返事を待つこともせずに俺の乳首をつねりあげる。
「――ッあ、ちょっ」
「ハハーッ、いーい反応じゃねぇの!」
(バカ、俺はマジで乳首が弱いんだっつーの!)
払いのけようと伸ばした手はあっさりと奴に捉えられ、まるで床に磔にされたみたいに抑え込まれちまう。ぐっと上体を押し倒してきたバクシーは、使えなくなった手の代わりにその馬鹿みたいに長い舌を俺の乳首へと伸ばしてきた。
「バカ、やめ、ろって……」
柔らかな舌が乳首の上をぬるりと撫でていく。奴の舌に刺さったピアスに引っかかれる感触が、ひどくもどかしい刺激となって、腰から下が自然に揺れてしまう。
「ハハーッ、ずいぶん悦さそうじゃねぇのよ。乳首もチンコもガチンガチンだぜェ?」
俺の胸の上に涎を垂らしながら、バクシーが熱くささやいた。両腕を拘束されて、上から見下ろされながら腰を使われる。なんだか、突っ込んでいるのは俺の方のはずなのに、まるでバクシーの野郎にレイプされてる気分だ。
「あー、スゲェ、どんどん硬くなってくる、ぜ――」
毛と毛をすり合わせるみたいにして、バクシーの奴が腰を左右に揺らしながら押しつけてくる。さっき中にぶちまけた精液が中から零れてきてるのか、接合部の辺りからはにち、ぐちゃ、と粘りのある湿った音がしきりに漏れる。そこに奴の長い舌が俺の乳首を嬲る水音がぴちゃぴちゃと入り混じって、まるで耳まで犯されてるみたいだ。頭の芯がぼぅっとして、何も考えられずにただ腰だけが動いている。
いきなり、乳首から全身に痺れるような刺激が走った。
「アッ――」
ビンビンにおっ勃った俺の乳首の先端にバクシーが噛みついたのだと気づくよりも先に、悲鳴じみた喘ぎが口から飛び出す。尖った犬歯の先端が柔らかい皮膚にめり込んだせいでうっすらと血のにじむ乳輪にバクシーの舌がねっとりと這った。
俺の血を舐めたバクシーは、上質のクスリをキメたみたいにイッちまった表情でうっとりと目を細め、何度も執拗に傷口を舐る。それにまんまと煽られて、俺は馬鹿みたいに腰を突き上げる。俺たちは二人とも汗まみれで互いの腰を打ちつけ合いながら、開いた唇からはぁはぁと犬みたいな吐息を漏らしていた。
「な、キス、しろよ」
ふと思いついてそう言ってみると、バクシーは一瞬だけ怪訝そうな顔をしたが、素直に唇を寄せてきた。侵入してきた長い舌が口蓋や歯茎をぬるりと舐めるたび、俺の歯と奴のピアスが触れ合って、カツ、カツ、と硬質な音を立てる。俺は衝動の赴くまま、その舌に思いっきり歯を立てた。
さすがに驚いたのか、逃げようとする舌を上下の歯でしっかり抑え込み、根元からしゃぶるようにして血の味のする唾液をずるずると啜ってやった。ごくりと飲み下せば、口いっぱいに広がる血臭が鼻の粘膜も犯していく。
(すーげぇ、クラクラするわ……)
血の匂いで興奮してたバクシーのことを、嗤えねぇ。間近にある顔は右の眼が細められていて、一見すれば痛がってるだけのように見えるが、二人の身体の間にある奴のペニスはガン勃ちで、俺の腹筋に押しつけられたそれがぬめぬめと何度も腹の上を抉るように滑る。さっき出した精液はとっくに乾いちまってるから、このぬめりは正に今奴が出してる先走りだ。
(自分の血の匂いでもコーフンできんのネ)
いっそ感心してしまうほどの徹底ぶりに心の中で感嘆のため息をつきながら、俺は腰を突き上げた。相変わらず両手首を押さえつけられているものだから、奴の舌を噛むことと腰をピストンさせることぐらいしかできることがないのだ。
「ン、フ、っ……んゥ――ッ」
舌を放してやると、バクシーは上体を起こして激しい上下運動を再開した。一気に引き抜いては、ゆっくりと腰を下ろして俺のペニスを体内へと収めていく。入口付近が感じるのか、カリの張り出してる部分がそこに引っかかるたびにでかいペニスがびくりと頭をもたげ、涎みたいにガマン汁をたらたらと零す。
涎を垂らしてんのは上の口も同様で、血の入り混じった唾液が半開きの唇の隙間から溢れてつぅっと顎を伝い、奴が身動きするたびに汗と一緒に俺の顔の上に降ってくる。快感に潤んで細められた両目は、それでもしっかりと俺の視線を捉えて逸らされることがない。肉食獣にとっ捕まった獲物みたいな気分だ。
このまま、オスのカマキリみたいにセックスが終わったら頭からバリバリ食われちまうんじゃないか。そんな危機感さえ半ば本気で抱いてしまいそうな状況だというのに、俺は今までにないほどに興奮していた。突っ込んだペニスが一段とでかくなって、奴の入口と内側を、ぐ、と押し広げていくのがわかった。もうもたない、と判断して抉るように腰を突き込むと、鋭い喘ぎ声がバクシーの口から迸る。
「ア、ッ――アァッ!」
その直後、びゅる、と音がしそうな勢いで、奴が精液を放つ。さっき出したばかりだからかやけに水っぽいが、量だけはたっぷりとある生温い体液を顔で受け止めながら、俺もぶっ放していた。
短く忙しない呼吸に合わせて腹筋が上下する。狭いリネン室で二人分の荒い呼吸がこだました。しばしの沈黙――の、のち。
「っぶねぇー、目に入るかと思ったっつーの! つーか、臭ぇ! キモい!」
バクシーの腕を振り払うと――予想に反して案外あっさり放された――俺は大慌てで自分の顔を掌で拭った。掌にべったりとついてくる体液に、うぇ、と顔をしかめながら見上げると、バクシーは皮肉げに唇を歪めながらゆっくりと立ち上がった。奴の体内からずるりと抜け落ちる俺のペニスの後を追うように、中からもったりとした液体が零れ出てくる。微妙に泡立っているのは、一回目に出した精液の方に違いない。
「てめーは人の中にさんざんっぱらぶちまけたくせに、ぶっかけられたぐれーで文句垂れてンじゃねぇ」
一瞬、ほんの一瞬だけ、それもそうだなと納得しかけちまった。だが、そんな詭弁には騙されねぇ。
「バァーカ、おめーが上に乗っかったまんまどかなかったんだろ。他の場所になんて出しようねーじゃん」
それに、と言いながら俺は眉間に皺を寄せた。
「俺さ、なんかすっかりただのディルド扱いじゃねぇ?」
少しばかり拗ねた口調になってしまったのは致し方ないと思う。これで相手がバクシーみたいな野郎じゃなくて淑やかなレディだったりした日には、ショックですっかりインポになっちまいそうな気さえする。
「ハッ、おめーのチンコがディルドより上等なのは、冷たくねぇとことザーメンが出るとこぐれぇダロ」
「ア、アタシ、なんだか今モーレツに傷ついたワ……」
冗談と本音が半々ぐらいの気分で胸を抑えつつよろめくと、少しだけ乱暴に後頭部の髪の毛を掴まれた。
「いて、やめろって、ベルナルドになっちまう」
俺の抗議をあっさり無視してバクシーはそのままぐいと、と後ろに引っ張りやがった。若ハゲになりたくない俺は眉をしかめつつ、その動きに従って頭を仰け反らせる。見上げた先には、少しだけ細められた――まるで仕留めた獲物を検分するような――バクシーの両目があった。
「シケた面してんなっつーの。あったけぇ体温があって、それよりもっと熱い汁をぶちまけられる。それが一番肝心なとこだろ?」
(――そんなん知るかよ)
言いかけた唇は、一回りでかい相手のそれに塞がれる。長い舌で喉の奥まで押し戻された言葉を飲み下しながら、バクシーの後頭部に手を伸ばして、後ろ髪を同じように引っ張った。
唇を合わせたまま、無言でぎゅうぎゅうと互いの後ろ髪を引っ張り合う。やがて、どちらからともなく笑い声を漏らして唇が離れた。間近にある目を見つめながら、俺は気になっていた点について言及することにした。
「あのサ、ヤッてる相手が死んじゃった時は、中を洗ってからこっちに来てもらえるかしら」
他の男の精液が残ってるとかも萎えるが、死人が突っ込んだ後ってのはそれ以上に萎えちまう。
「ホゥ……」
抗議の意思を込めて言ったつもりだったが、バクシーは小さな笑い声を漏らして愉快げに目を細めた。
「それはあれか、また俺とやりてェっつー意思表示ってことかよ、ワンワンちゃん?」
「――エ?」
そういう意味じゃない、と反論しかけて、言葉に詰まってしまう。またやりたいと思ったわけじゃねぇけど、『次』を全く考えていなかったかといえばそういうわけでもない、という事実に気づいてしまったせいだ。見上げたバクシーの瞳の中には、微妙そうな表情を浮かべてこちらを見る俺が映り込んでいた。俺の表情を見て、バクシーは猫のようにきゅーっと両眼を細める。
「いいぜェ、また遊ぼうや。金髪のワンワンちゃん」
ささやくようにそう言うと、ゆっくりと顔を近づけてくる。長く下ろされた髪が頬に刺さる感触。目に入りそうなそれに反射的に瞼を伏せた次の瞬間だった。
「いっ――!? ってぇ!!!」
驚きのあまり、俺の口からは悲鳴じみた叫びが上がった。てっきりキスでもされるのかと思いきや、野郎は俺の耳たぶに力いっぱい噛みついてきやがったのだ。ブツッ、という音――というか手応えというか――で、ピアスの穴さえ開けたことのない俺のバージンな耳たぶが奴の歯で噛み切られたことを悟った。
傷口に舌を這わせようとする身体を力ずくで押しのけ、慌てて耳たぶに触れると、懸念に反してそれはまだ俺の耳にきちんとくっついていて、知らず安堵のため息が漏れる。だが、喰いちぎられなかったとは言っても噛み切られたことに代わりはない。溢れ出る血はあっという間に指先をしとどに濡らしていく。
顔中をしかめて非難がましい視線を投げつけると、口の周りについた俺の血を長い舌で舐め取りながらバクシーがニヤリと笑い返してくる。その舌の表面に、さっき俺がつけた深い傷痕がざっくりと残されて未だに血をにじませているのを認めたとたん、睨む力が自然と弱まってしまったのが自分でもわかった。俺の内心を見透かすみたいに眉毛を上げてみせながら、噛み切られた俺の耳をバクシーが指で差し示す。
「ソレ、予約のシルシな」
「――ハァ?」
「オメーも俺につけただろ?」
傷を見せびらかすように長い舌を閃かせながらそう言って、バクシーは傷口を押さえている指ごと俺の耳たぶをべろりと舐め上げた。耳たぶの傷口に舌が触れたとたん、鋭い痛みに飛び上がりそうになる。それは紛れもない激痛のはずだというのに。
「じゃあ、またナァ」
そんなひと言を残してリネン室を出て行くバクシーの背中を見送りながら、既に二度放出したはずの股間がまたしても勃起している事実を認めたくなくて、俺は頭を抱えた。