後戯を大事にする恋人に、ねっとりとキスをされながら。快感の余韻を残した身体を熱い大きな手で撫でさすられる。性感を呼び覚ますというよりは子供を寝かしつけるような手つきに、うとうととまどろみかけていたジャンは。
「可愛い……可愛いなァ、ジャン……俺の――俺だけの、可愛い、可愛い、ジャン……」
「まーたお前は可愛い、可愛いって……」
何度も何度も繰り返される言葉に、熱烈なキスを交わそうとしていた上まぶたと下まぶたを無情にも引き剥がした、ジャンは。小さく唇を尖らせて不満そうな声を漏らす。
「ンー? 何だよ、可愛いって言われんのが嫌なのけ?」
軽く突き出された下唇を、チ、チ、と小さなリップ音を立てながら数回啄んで。それから投げかけられたバクシーの問い。「満更じゃないのは分かっているぞ」と言っているも同然の口調に、ジャンの唇はますます尖った。
「嫌っつーか……同い年の男捕まえて言うことかよって……それに、俺がジジイにでもなったらどーすんだよお前」
「ハァ? そんなん、ジャンがジジイになろうがジイさんになろうが、可愛いもんは可愛いに決まってンだろうが」
何を言っているんだお前は、とでも言いたげな表情でジャンの顔を見つめていたバクシーは、徐に口を歪ませた。ニヤリ、と、いかにも悪党らしい悪そうな笑みの形に。それを目にしたジャンの背筋を嫌な予感が這い回る。
「なーあー、ジャァンー。それってよぅ、それって」
「な、何だよ……」
「ジジイになっても俺と一緒にいてくれるってこと、だよなァ?」
「バッ、そういう意味じゃ……」
そういうつもりで言ったわけではなかった。だが、この先もずっとバクシーと共にあるのが当たり前だと思っていたのも確かだった。そんな己に気づかされたジャンは、ニヤニヤと笑うバクシーの顔から視線を逸らして顔を押さえた。右掌で覆った顔は燃えるような熱さで、この調子では恐らくは耳まで赤くなっていることだろう。血が上った頭はまともに働かず、羞恥心で眩暈がしそうだった。
「――カッツォ」
向けられた背中に寄り添うように抱き締めたバクシーは、赤く色づいた耳の縁にそっと唇を落とす。
「嬉しいぜ、ジャン。ずーっと俺をおめーの傍に置いてくれ」
先ほどまでの揶揄うような口ぶりとは打って変わった真面目な口調に、ジャンは小さな呻き声を上げた。
(俺なんかより、お前の方が何十倍も可愛いだろうがよ……)
「ったりめーだろ、いなくなったら承知しねぇ、つーの!」
振り返り、胸座を掴む勢いで――まだお互い裸なので掴めるものなどなかったが――そう言ったジャンの目の前で。バクシーは、驚くほど無垢な表情で嬉しそうに笑った。