バクシーがシノギのためにロックウェルを離れてから、三度目の夜を迎えた。カサブランカの部屋の中、ベッドの上で一人きりのジャンは。就寝前に床に掘られた炉に食わせた薪の爆ぜる音がすっかり落ち着き、熾火へと変化してからしばらく経つというのに。未だに一向に訪れる気配のない眠気を待っていた。今日も一日それなりに動き回ることになった身体は存分にくたびれていて、睡眠を欲している。それなのに眠れずにいる理由は、ジャン自身が一番よく理解していると言えた。
「――カッツォ」
己の股間で静かに主張していた分身が、いよいよ無視できないほどに昂りはじめた。それを感じたジャンの口から、ごく小さな罵り文句がこぼれ出す。これは俗に言うあれだ、疲れマラというものだ、と。胸の裡で独り言ちたと同時に。
「……カーヴォロ」
再び口を突いて出た罵声は、先ほどよりも少しだけ勢いが弱い。ジャンが無意識に覚えた、己に対する情けなさの現れかもしれない。別れを惜しむ恋人に、出発日の明け方まで延々と貪り尽くされたジャンとしては、もう当分の間――最低でも一週間は――セックスはお腹いっぱい間に合ってます、な気分だった。少なくとも、昨夜までは。それなのに、そんな彼の心を裏切って、彼の身体は精子を放出させろとうるさく主張を始めてジャンを眠らせようとはしないのだ。
「一週間どころか三日しか経ってねぇっつーの……」
そうぼやいたジャンの脳裡に、以前彼の恋人がしたり顔で語った言葉――健全な成人男性の精子は三日で満タンになる――が過って、無性にそいつの頭を引っぱたいてやりたくなった。同時に、自分の身体を快楽の渦に叩き落とす男の凶器の硬さ、押さえつけてくる腕の力強さ、耳朶を舐める舌の熱さ。それらまでもがまざまざと蘇って、とうとうジャンは白旗を上げた。
「クッソ……こんなんなったら、もう抜いちまうしかねぇよな……」
さっさと抜いて寝てしまおう、と手を伸ばしたそこは、もう臍につくほどに反り返っている。亀頭を押さえこんだ掌がぬるついた液で滑ったのを感じて、呆れと――心地よさでため息が漏れた。
「ン、フッ……」
ぬめる液を亀頭から竿にかけて満遍なく塗り広げるようにしながら、一定のリズムで扱く。最小の動きで快感を高め、最短の時間で射精に至らしめる。必要に駆られて欲を吐き出すためだけに行われる、作業に等しい機械的な行為。これまでの人生で何度となく繰り返してきた慣れた動作だった。その、はずだった。
「カッツォ……」
手を動かせば動かすほどに、何の刺激も受けていないはずのアヌスが、その奥深い部分が疼いてたまらなかった。我慢できずに指を舐めしゃぶり、自分のアヌスに突っ込む。使い込まれたそこは、唾液のぬめりだけでいとも簡単に二本の指を?み込んだ。温かな肉襞の感触の中、周りの壁とは触感の違う箇所を指先が探り当てる。膨らんでいるようにも感じられるそこを少しだけ強めに撫でさすると、お漏らしをしそうになる感覚と同時に一瞬目の前が眩んだ。
「ア、ぁ……はぁ、ぅ……」
涎を垂らしながら、空いている方の手で再びペニスを扱く。程なくして、ジャンは射精に至った。腹の上に飛び散った精液をシャワーで洗い流そうとため息をつきながら身を起こし、ベッドから床へと降り立ったその時。ずくり、と、ジャンの身体の奥底が、熱を求めて激しく疼いた。
「――ファンクーロ!」
ここまでの行為は前戯で、本番はこれからだろう。そう言わんばかりの疼きに、ジャンは叫ばずにはいられなかった。この場に、彼の愛しい馬鹿ちんぽは存在していない。その代わりになりそうな物もまた、存在していない。一人で解消できる見込みのない熱を抱え込んで、一体どうしろというのかと。途方に暮れた男は額に手を当て、天井を仰いで嘆いた。
――朝の訪れはまだ、遠い。