「会いてぇよぉ、ジャァァァン!! こうして電話越しにお前の声聴いてるだけで、俺ぁもうイッテェくらいに張り詰めちまってよぉ、――あ、今ちょびっと出た」
「アホなこと言ってねぇでお前は真面目にシノギに勤しめ! いいな、切るぞ?」
「そんな冷てぇこと言わないでくれよぅ、せめて今どんなパンツ履いてるのかだけでもさぁ」
「き・る・か・ら・な!」
「アーーッ待て待て待って! 愛してるぜ、ジャぁン!!」
ガチャン、と大きな音を立てて受話器を置いたジャンに、リリーがじろりと視線を送る。特に何かを言われたわけでもないというのに、視線を受けたジャンは居心地悪そうに肩をすくめた。
「あー……騒がしくしてすまねえ、リリー。――定時連絡も一通り受けたし、俺、ちょっと部屋に引っ込んでるわ」
本日最後の定時連絡となったバクシーからの電話を一方的に叩き切った――無論、その前に必要な連絡事項はちゃんと聞き取っている――ジャンは、椅子から立ち上がって塒にしている部屋へと向かった。その足取りは、彼にしては珍しく冴えない。
◇ ◇ ◇
部屋に入ったジャンはソファの前を通り過ぎ、ベッドの上へとダイブした。頭の片隅で、部屋の鍵はちゃんと掛けただろうか、と考える。だが、考えたところで答えは出なかった。ほんの数秒前の自分の行動すら把握しきれていないなんて、ポンコツもいいところだ。笑う気にもなれず、ジャンは小さく罵り文句を口にした。
「カッツォ……」
バクシーがロックウェルを離れてから、かれこれ二週間ほど経過した。その間、定時連絡こそ受けてはいるが、逆に言えばそれ以上の接触は一切していないことになる。「会いたい」「死にそう」「ザーメン溜め込み過ぎておチンポが爆発しちゃうゥ」「お兄さん……今日のパンツの色は?」等の嘆きと欲望が入り混じったバクシーの魂の叫びが、受話器を取る度に電話口から垂れ流される。毎回のようにそれを聞かされているジャンの心境はと言えば。
「俺だって会いてぇっつーの……」
電話越しに恋人の声を聞いただけで、会いたくて会いたくて、こちらから駆けつけたいような気分になってしまうのだ。バクシーにもそれが分かっているからこそ、敢えて電話口でふざけてみせているのだろう。少なくともジャンはそのように考えているし、だからこそよけいに腹立たしいような気分になるのだ。少なくともバクシーにはまだ、ジャンを気遣うだけの余裕がある、ということなのだから。
「クッソむかつく、馬鹿ちんぽのくせに」
唇を小さく尖らせるジャンの耳の奥で、毎回の通話の最後に告げられる言葉が蘇った。
『愛してるぜ、ジャン』
その言葉にジャンが応じたことはない。電話をしている時はほぼ確実にリリーが――その他にもカラーひよこの誰かだったりが――すぐ傍にいるからだ。バクシーからしてもそんなことは百も承知の上で、返事を期待して言っているわけではないだろう。だが、自分が言いたいから言っているだけ、の恋人の言葉に、ジャンは日々追い詰められていく。愛していると言われるたびに会いたい気持ちが募って、自分だって愛していると返してやりたくてたまらない気持ちになるのだ。
「……早く帰ってきやがれ、馬鹿ちんぽ」
帰ってきたらその時は、返せないまま溜め込んだ愛してるにお釣りをつけてあのアホ面に叩きつけて。それから、限界までザーメンを搾り取ってやろう。そんな風に心に誓ってから。
「いや、それって俺の身体がもつのけ?」
不意に現実に立ち返ったジャンは、ベッドから起き上がると床に伏せ、唐突に腕立て伏せを始めた。
(明日からは走り込みもするか……帰ってきたら目に物見せてやるぜ、バクシー!!)