ほろり、ほろり。
困惑したような色を浮かべる銀色の双眸から溢れ出て、俺の頬目がけて落ちてくる雫。皮膚に触れると仄かな温かさ――持ち主の体温の残滓を感じさせるような、水滴。
色も濁りもない、その透明な水の珠を。
――ひどく、美しい、と思った。
出会ったばかりの頃ならば、この男が涙を流す場面なんて想像もつかなかったことだろう。血も涙もない、なんてのは使い古された言い回しだが、あえてそう表現したくなるような、人間味の欠片もない男だと思っていた。
そんな風に思わされていたんだと、そう気づいたのはいつ頃のことだったんだろう。
本当のこいつは、恐れ知らずの無敵の超人でも何でもなくて。誰よりも慎重で、人一倍用心深い、本当は人並外れて臆病な男なんだってこと。失う痛みが耐え難いから、失わなくて済むように、大切なものを最初からできるだけ持たないようにしているだけなんだってこと。
そんな男がそれでも手放すことのできなかった、数少ない〝大事なもの〟の中に俺も含まれていることに。その事実が意味することに。
自分よりも遥かに戦闘に長けていて、反則技みたいなフィジカルを持つ男。どんな時でも俺を守り助けてくれる無敵の相棒。だけど、こいつを守ってやれるのも助けてやれるのもまた、俺だけなんだってこと。
気づいた時にはもう、囚われていたんだろう。
(クソ、腕が動かねぇのがもどかしいな……)
この腕が動くなら、今すぐにでも手を伸ばして、野郎の涙を拭ってやれるっていうのに。俺の内心のもどかしさなんて知る由もないバクシーは、自分の手でゴシゴシと顔を擦って涙を拭いちまった。
「ああ……よかった…………」
いつものバクシーからは想像もつかないくらいの弱々しい声で吐き出された安堵の言葉に、心臓を握り潰されたような心地になる。
(――そうだな、よかった)
生き延びることができて。
お前を独り、遺して逝くことにならなくて。
――本当に、よかった。