ジャンと出逢えたことが最上の幸せだと思っているバクシー。ジャンもバクシーに出逢えて幸せなんだよ。
俺を好きだって、言ってくれて。そう言いながらイッてくれる、ジャンの声に表情に姿に――存在そのものに煽られて。愛してる、欲しくてたまんねぇ、俺のもんだ、って叫びながらタマの中が空っぽになっちまったって思うぐらいに何度も何度も吐き出して。多幸感で痺れたみたいにふわふわする頭でキスを交わして、ふにゃふにゃになったジャンを抱きしめて転がった。
今、俺の腕の中には規則正しい寝息を立てたジャンがいて、その温もりに無上の幸せを感じるのと同時に。俺にとってはそうでも、ジャンにとってはどうなんだ、って、そんな気持ちが湧き起こってきちまって。
今ジャンがこうして俺の隣にいるのは、俺が強引にジャンをこの道へと引きずり込んだからだ。マフィアのスミを無理矢理剥ぎ取ってあいつらの所に戻れない身体にして、泣いて嫌がるのを強引に犯して、俺のチンポなしじゃイケないって言うようになるまで抱き潰して。そうして、情に脆いジャンの性質に付け込んでお前がいないと生きていけないって、捨てないでくれって、縋って俺に縛り付けた。
俺はきっと、ジャンに出会わなかったらこんな幸せがこの世に存在してるってことを知らないまま生きてたんだろうなぁって、そう、思う。だけど、ジャンは違う。どこに行ったって自分の力でテメェの居場所を作って、誰かの光になって、自分も周りも幸せにする。ジャンはそういうタイプの人間だ。
俺と出会っちまったジャンと、俺と出会わなかったジャン。どっちがより幸せなのか。ジャン本人に訊いたら自分の愛情を疑うのかって、そう怒られるのは分かってるから言わねぇけど。疑うとか信じてないとかそういうことじゃなくって、その二つをフラットな目線で見比べた時にどっちに軍配が上がるかって話で。
廃れた鉱山しかないクッソシケてる寂れた街でおままごとみたいな人数しかいないギャング団の、ボスとは名ばかりな貧乏暮らしをしてるのと。それなりに豊かな街でお綺麗な仲間たちに囲まれてピカピカな暮らしをしてるのとだったら。誰でも後者の方が幸せな人生だって言うんじゃねぇのかなって。
セックスの後は時々こういう気分になる。さっきまでめちゃくちゃ幸せだったのに、その反動みたいに寂しくって悲しくって怖くなる。ジャンは確かにこの腕の中にいるのに、うっかり目を離したらその隙に消えていなくなっちまうんじゃないかって。
「ジャン、俺の、ジャン――俺は、おめぇに会えて、幸せだ……だから絶対に離さねぇ……」
例え俺と出会った人生がジャンにとって最上のものじゃなくても、それでも絶対に手放したりなんてしねぇ。そんな気持ちで、俺は腕の中のあったかい身体をギュッと抱き締めた。
◇ ◇ ◇
俺の名前を呼ぶ、バクシーの声。泣き出す寸前のガキみてぇならしくない声に、沈んでた意識が浮上する。何だよ、また泣いてんのか、泣き虫のクリステンセン坊やは。
バクシーが俺をロックウェルに連れてきたことやレイプしたことを負い目に感じてるっていうのは、俺にだってよく分かってる。反省しながらも後悔するつもりは微塵もねぇってことも。きっと過去に巻き戻って同じ場面に放り込まれたら、悩みながらもやっぱり同じ行動を繰り返すんじゃねぇのかな。そういうとこは、しっかり悪党なんだよな、こいつ。
レイプされたことも、攫うみたいにしてロックウェルに連れてこられたことも、今はもう許しちゃいるけど、それでも未だにムカついてるし根に持ってはいる。だってあの時、絶対死んだと思ったもんな。刺青ごと肉は食い千切られるし、初めてだったのにあんな凶器チンポ無理矢理ぶち込まれて。ヘタしたらまともにトイレに行けない身体になってたかもしれねぇじゃん。
だけど、今になって振り返ってみて、分かることだってある。あのまま俺が連中と一緒に脱獄してたとして、何ができただろう。あいつらがされたみたいにどこかに幽閉されてたんだとしたら。身動き取れずにいる間にデイバンはよそのヤクザにめちゃくちゃにされちまってるし、ボス・アレッサンドロは印章を奪われて殺されて組織は崩壊状態。
ボスを失った俺たち五人は印章を手に入れてやりたい放題の役員どもが仕切る審問会にかけられて、良くてデイバンからの追放、悪けりゃ刑務所に逆戻りだ。脱獄の際に何人か殺してるのがバレてたら死刑だってありえる。しかもそれならまだましな方で、実際にはまだ幹部と認められてすらいなかったらしい下っ端のチンピラなんて、下手したらさっさと殺されてたかもしれねぇ。
だからきっと、あの時、バクシーが俺を連れ出してくれて運命が変わったんだって、そう思う。ラッキーが切れちまって行き詰ってた俺の人生に、バクシーって大砲が風穴を開けて引っ繰り返しちまったんだって。そう、思うから。だから。
「俺を連れ出してくれてありがとうな、バクシー」
色んなことがあったけど、こうしてお前と一緒にいる今がどうしようもなく幸せで満たされてるから。俺はお前と出会えて良かったって、そう、思ってるから。
――だから、泣くな。