この絵を参考に書いたお話。ムショで虐められてジャンさんに庇ってもらう甘えたな囚人バクシーくん。

甘えっ子囚人バクシー - 1/2

3,897文字 / 約5分
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通廊の片隅、壁が少し奥に引っ込んでる辺り。そこに隠れるようにして、囚人が数人固まってるのが視界に飛び込んでくる。ムショの中では珍しくもない光景。リンチの現場だ、と察した俺は厄介ごとに巻き込まれるのを避けるべく踵を返そうとしたが。

「じゃあん!」

それよりも先に、輪の中心にいた男の上げた声に動きを止められちまう。その声が向けられた方角、つまりは俺のいる場所へと、その場にいた男たちの視線が一斉に向けられて。いよいよ身動きが取れなくなっちまった俺は内心で舌打ちをした。

カッツォ)

リンチされていた男、イカれジャンキーのバクシーは無駄に長い脚をもつれさせながら輪の中から転がり出ると、その場にぺたりと座り込む。その体勢のまま俺の方をじぃっと見つめながら。

「じゃ、ぁんん」

再度、俺の名を呼んだ。親の名前を必死に叫ぶ迷子みてぇな声で。

(ファンクーロ! 俺を巻き込むんじゃねぇ!!)

内心で罵ってはみるものの、俺はそんな風に縋られると弱い。ヤクザの癖に甘すぎると言われたこともあるし、自分でもそこが欠点だと分かっちゃいる。だが、こんな風に自分に縋ってくる相手を見捨てることができなかった俺は、渋々足を動かして。おざなりな掃除しかされていないクッソ汚ぇ通廊にべったりと座り込んだ惨めな男の元へと歩みを進めた。
このまま二人揃ってリンチされる、なんてのは無論ごめん被る俺としては、何を条件にすればこの連中に引き下がってもらえるだろうかと頭の中で計算を巡らせ。だが、連中に関する情報がほとんどないせいもあって、確実だと思える策は出てこない。
考えている間にも俺たちの距離は縮まっていく。

「ケッフニャチンのマカロニトマト野郎かよ」

バクシーをリンチしていた連中の一人が俺を見ながら忌々しそうな口調でそう言って、唾を吐いた。吐き出されたそれは床の上に投げ出されているバクシーの手のすぐ脇に被弾して。哀れなジャンキーはそんな些細な刺激にすらも大袈裟に震え上がって身を縮こまらせる。
この連中はスミから判断した限りではどうやらGDの構成員のようで、俺は思わず天を仰ぎたくなった。元々CR:5とGDの関係はいいものではなかったが、ここ最近は悪化の一途を辿っているらしい。そんな評判がムショの中でバカンスを過ごしている俺のところにまで届いている程度には、関係の悪さが顕著化しているってことだ。

ジーザス、こりゃ何を交換条件にしても無理じゃねぇか? リンチ待ったなしだろ

自分の運の悪さを嘆き、内心で天を仰ぐ。だが、連中の中ではボス格らしい男がチラリと俺に俺の鎖骨に刻まれているマフィアのスミに視線を送ったかと思うと。

「今連中と揉めるのはマズい行くぞ」

そう言って俺に背中を向け、他の奴らを促すような言葉を吐いた。その言葉を受けたGDの集団は潮が引くみたいにサッと立ち去ってしまう。どういう訳なのか、言われた言葉に反発を見せたりごねたりする野郎は一人もいなかった。
何だか化かされたような気持ちで連中の背中を見送った俺は、それが見えなくなったところでようやく緊張の糸が切れて大きく息を吐きながらその場にしゃがみ込む。

「はぁぁぁぁーーー!!」

背中や脇から噴き出した嫌な汗にじっとりと濡れた囚人服が身体に貼り付いてひどい不快感を生み出す。何はともあれ危機を脱した訳だが、解放感よりも疲労感の方が強くて立ち上がる気になれない俺の背中に、のし、と重たい塊がのしかかってきた。

「じゃあ、ん」
「ちょ、重てぇ。俺を潰す気かよ」
「じゃあんー」
「カッツォ、人の話を聞けっつーの」

口で言っても埒が明かないので肘で押しやってみるが、それもまた効果がない。弱々しい外見に反して案外力の強いこの気狂い野郎は、俺に縋りつき、長い両腕で万力みたいにぎゅうぎゅうに締め上げてくる。俺を手放したら死んじまうとでも思ってんのかってぐらいの必死な様子に、野郎を振り解くのを諦めた俺は。

「はぁーしょうがねぇなあ!」

自分の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回した後、俺はきったねぇ床の上に尻を下ろした。そうして前屈みの体勢から重心が後ろに移動するのに従って、俺の背中に乗りかかっていたバクシーの身体も床の上にごろんと転がり落ちる。そうなってもなお俺にしがみつく腕を放そうとしないキチガイをため息交じりに見下ろすと、涙で潤んだ瞳と視線が合った。
〝怖かった〟と書いてあるようなその目と見つめ合うこと数秒。俺はもう一度ため息を吐き出して。

「ほんっとしょうがねぇなあ

前に一度、このキチガイ野郎に気紛れに煙草を恵んでやったことがある。それ以来すっかり俺に懐いちまったらしいこのイカレたキチガイ、いつでも全力で縋ってくる哀れなジャンキー男を、俺はどうにも邪険にすることができない。

絆されちまった、ってことなんかなぁ

明後日の方向に視線をやりながら懐をまさぐって煙草を取り出した俺は。そんな自分をすぐ間近からねっちりと観察している冷徹な視線に気づくこともできないマヌケな俺は。
自分の背後に貼り付いているそれが危険な獣だということに気づくこともないまま、煙草に火を灯して煙を深く深く、吸い込んだ。