目隠しを取り払われたベルナルドは、突如開けた視界の思いがけない眩しさに目をしばたたかせる。ぼんやりとした蝋燭の灯りだけが頼りの薄暗い部屋に何日も押し込められていた彼には、ありふれた蛍光灯でさえも強すぎる刺激となった。暴力的にすら感じられる明るさに目が順応する頃になってようやく、彼は目の前の光景を認識し。その異様さに戸惑いを隠せず狼狽えていた。
ベルナルドの視界に映し出されたのは、後ろ手に拘束された状態でソファに座らされている屈強なギャングの男。身に着けていた一切を奪われ、鋼のような筋肉で覆われた肉体を曝け出した男の股間では、まるでそこだけ別の生き物――鎌首を持ち上げた蛇のような男性器が隆々と勃ち上がっている。これまでの人生でついぞお目にかかったことのないようなサイズと形状に、ベルナルドは我が目を疑って二度、三度と瞬きを繰り返した。反射的に持ち上げた手で目を擦り、眼鏡を拭こうとしたものの、座らされた椅子の背もたれに上半身を括りつけられているせいでそれは叶わない。
きつく締め上げられている上半身をわずかに揺らしたベルナルドの有様を面白そうに眺めやってから、ジャンはソファに座るギャングの腿の上に乗り上げた。
上半身には辛うじてシャツを纏っているが、ジャンの下半身の衣類は全て脱ぎ捨てられ、脚が剥き出しになっている。シャツの裾から覗く太腿の内側の白さに、ベルナルドは無意識に唾を呑み込んで――だが、ジャンがこれからなそうとしていることに気づいた男の驚愕が興奮を凌駕した。
「ジャ、ジャン……」
「あんたのために用意した特等席なんだ、楽しめよベルナルド」
バクシーに背を向けて彼の太腿の上に座ったジャンは、目の前のベルナルドに見せつけるように自分の脚を開いてみせる。下準備を済ませ、潤滑剤で濡れ光るアヌスを指でなぞってみせると、ベルナルドの白い頬が薄っすらと赤らむのが分かって、ジャンは舌なめずりをした。
バクシーの両腿を跨ぐ形でソファの座面にしゃがみ込んだジャンが、後ろ手に男の性器に触れる。ジャンの手が触れた瞬間、刺激を待ち侘びていた熱い肉の塊がびくりと震え、待ちきれないと言わんばかりに涎を垂らした。その反応を小さく鼻を鳴らすようにして嘲笑ってから、ジャンは自分の手で支えた肉の杭の上にゆっくりと腰を下ろしていく。
「ッハァ……相変わらず、冗談みてぇなサイズしてやがるぜ……」
限界を超えて広がっているように見える肉の狭間に、信じられないほど巨大な男性器がゆっくりと呑み込まれていく。
大きく見開いたアップルグリーンの瞳に映し出されたその光景に、ベルナルドは脳を灼かれるような衝撃を受けて目眩を覚え、長い睫毛をそっと伏せた。
「現実逃避はダメだぜ、ダーリン。ちゃぁんと見ててくれねぇと、な」
うなだれるベルナルドの鼓膜を打つ、ねっとりと甘い響きの声。かつてはその声に「ダーリン」と呼びかけられると甘く切ない疼きに胸をくすぐられたものだというのに。今のベルナルドは、そう呼ばれる度に猫に追い詰められた小さな生き物のような心地になる。
ジャンに呼びかけられても瞼を閉ざしたままのベルナルドの頬に、硬く冷たい物が押し当てられた。その何かは刃物――鋭利なナイフである、と理解するよりも先に、その持ち主である男がベルナルドの耳許で静かに囁く。
「――目を開けろ。ジャンさんの、お望みだ」
「……ジュリオ……」
己の背後に立ち、刃物を突き付けてくる男の、従わなければ迷わず暴力を行使することを確信させるような冷たい口調。かつての同胞であるその男が眉ひとつ動かさずに他人を殺せることを知りすぎるほどに知っているベルナルドは、力なく相手の名を呼び――だが、それ以上何ができるはずもない無力な男は閉ざしていた瞼をゆっくりと持ち上げた。
新芽のように美しく鮮やかな若草色の瞳が、脚を開いて男の性器を受け入れているジャンの姿を再び映し出す。力なくジャンを見遣るその瞳の表面に、今にも零れんばかりの涙が湛えられているのを見て。ジャンはにんまりと笑うと、ベルナルドが目を閉じていた間、停めていた動きを再開した。
ゆっくりと確実にジャンの中へ侵入を果たしていく男の勃起が。濡れた肉の狭間がこじ開けられていく音が。ジャンの唇から零れるなまめかしい吐息が。それら全てが、ベルナルドの鼓膜や網膜を犯していく。
「あ、あぁ……」
無意識に絶望の呻きを上げる男の姿を見て、ジャンはにたりと嗤った。
「ダーリン、ベルナルド。あんたも俺にこういうこと、したかったんだよな?」
「ち、違う……俺は、そんな……そんな、ことは……」
「違わねぇだろ。だってあんた、勃起しちまってんじゃん」
「――――っ」
ジャンに指摘されて初めて、ベルナルドは己の状態に気づかされる。元の仕立ては良い物であったはずなのに、すっかり薄汚れて擦り切れてしまっているベルナルドのコンプレート。その下半身部分の布地を押し上げる硬く張り詰めた男性器の存在を自覚したベルナルドは。
「違、うんだ……」
震える唇から零れ出した、あまりにも説得力に欠ける呟きを、ジャンは鼻で笑い飛ばした。
「なぁ、見てくれよダーリン。もうすぐ全部入っちまうぜ」
通常の男性器ならばそう簡単には入り込めないような場所にまで易々と侵入してきた硬い勃起の感触に、ジャンは背筋をぶるりと震わせる。無意識に背中と腰を丸めたジャンの唇が薄っすらと開いたかと思うと、涎と共に嬌声とも苦鳴ともつかないような苦し気な声が零れた。
「あ、ヤベぇ……無理だろ、こんなん……」
到底納まりきるとは思えないようなサイズであるにもかかわらず、屈強なギャングの男性器はその全容のほとんどをジャンの中に沈めている。己の腕ほどもあるのではないかと思うようなそれを銜え込むジャンのアヌスが、ベルナルドの視線の先で大きく広がりひくひくと蠢いて。
「あ、あ、いく、イッちまう……」
根元まで銜え込んだ凶器を食い締めるようにしながら腹筋を痙攣させるジャンの痴態が、ベルナルドの網膜を――脳を灼いた。
ジャンが、絶頂している。ただ、男の性器を受け入れた、それだけの刺激で、射精をすることもなく。その事実が、ベルナルドの脳を爛れたように灼き尽くしていく。
「あぁ……そんな…………」
わななく唇から吐息のようにか細く震える声を漏らすベルナルドを、ジャンは絶頂の余韻を湛えた目で見遣りながら嬲るような笑みを浮かべた。
「残念だったなぁ、ベルナルドぉ。あんたがグズグズしてる間に俺は、このイカレ野郎にレイプされちまって。このデカチンじゃねぇと満足いかねぇ身体にされちまったァ」
「やめ、てくれ……」
「あー、こんな、さぁ、デカブツ銜え込んで……苦しいのに、バカみたいに勃起しちまってさぁ」
ベルナルドに見せつけるために大きく開かれたジャンの脚の間では、本人の言葉通りに勃起したペニスが先端から雫を零しながらゆらゆらと揺らめいている。ベルナルドの視線を誘うようにひらひらと右手を閃かせてから、ジャンは自らの性器に触れ、それを扱き始めた。先端から溢れ出ているカウパー腺液を竿全体に塗り広げるようにしながら手を動かす度に湧き起こる粘った淫猥な水音。それを耳にしたベルナルドの股間がビクリと震えるように反応する。それを見逃さなかったジャンは、にたりと嗤った。
「ッ、ハハッ……やめてくれぇとか言ってる割にあんたのチンポはやる気満々じゃねぇか。それともやめろってのは口先だけで、本音はもっと見せてくれって思ってんのか?」
「そんな、そんなこと、は……」
「いいぜ。存分に見ていけよ」
ギャングの勃起を銜え込んだ尻を揺らしながら右手で自分の性器を扱き立て、空いている左手でジャンはシャツのボタンを下から上へとゆっくり外していく。徐々に露わになっていく白い素肌に、そして胸元で色づいている突起に、ベルナルドの視線が惹きつけられる。理性では拒絶している――と少なくとも本人は信じている――というのに、本能に抗えなかった男は口の中に湧き出した唾液を飲み下した。
物欲し気に自分を見つめる男を見ながら笑い、ジャンは左手で己の胸元をゆっくりと撫で上げる。掌で擦るように撫で回しているとやがてぷつりと勃ち上がってきた乳首を、今度は見せびらかすように親指と人差し指で摘まんでみせた。
「あっ、あぁ……っは、ァ、ん、んンッ」
触れられていないはずの右の乳首もいつの間にか勃ち上がっている。まるで刺激を待ち侘びるようなその姿に、しゃぶりつきたいという欲求が己の中で膨れ上がるのをベルナルドは止められなかった。
「ぅ、あ……ジャン……ッ」
思わず立ち上がりかけたベルナルドの動きに釣られ、彼の座らされ――縛りつけられている椅子がガタガタ、という音を立てる。だが、脚を床に打ち付けられて固定されている椅子は、ベルナルドの力ではそれ以上の動きを見せることはなかった。
「ハハハ、いっつもスカしたツラしてやがったあんたが、男の乳首で興奮しちまうとか……みっともねぇなぁ、ダーリン」
「――――ッ……」
唇を噛み締めて恥辱に耐えるベルナルドの、涙を湛えた瞳。レンズの向こう側にあるそのアップルグリーンの輝きの片方から、ついに涙が溢れて零れ出した。右の頬を伝って落ちる熱い液体の感触に、ベルナルドは睫毛を震わせ絶望のため息を吐き出す。
己の無力感に打ちひしがれる男の姿に、ジャンの胸には歓喜と興奮が渦巻いた。精神的な歓びは肉体の快感に直結し、ジャンの腹の奥を激しく疼かせる。
「――ッ、あ、ヤベェ、ドギィ……俺、も、出そう」
それまでずっと沈黙を保っていたギャングが、とうとう刺激に耐えきれずに声を上げ、腰を揺すって限界を訴えた。その声を耳にした途端、ジャンの表情が一気に不愉快そうなものに変化する。
「喋んなっつっただろうが。黙って竿便器に徹してられねぇんなら、お役御免にしてやったっていいんだぜ」
「いいのかよ。『このデカチンじゃねぇともうイケねぇ』んじゃねぇの?」
肩越しにバクシーを振り返り、じろりと睨みながら不機嫌な声を出したジャンに、男は揶揄する口調で問いかけた。己の優位を信じているような男の口調に、だが、ジャンは唇を歪ませ。ベルナルドには聞こえない程度の声で囁いてみせる。
「テメェの代わりなんざな、いくらでもいるんだよ。隣の部屋にも一人、もう用意してあるぜ」
「…………あの赤毛のライオン野郎のこと、かよ」
「その足りない頭でも理解できたんなら、黙って勃起させたまま座ってろ」
「…………イエス、マム」
大人しくなった――言葉の上だけではなく、今にも射精しそうに張り詰めていた性器までいくらかの収まりを見せている――バクシーに対する興味を瞬時に捨て去って、ジャンはベルナルドへと視線を戻した。
「なぁ、ダーリン。あんたにはまだ見せてなかったよな」
「…………何、を……」
何を見せるつもりなのかと不安そうなベルナルドの視線を存分に意識しながら、ジャンはまだ外していなかった残りのボタンへ指をかけた。最後の一つ、首周りを留めていたそれを外すと、ジャンは軽く身を揺すって左の身頃を肩からずり落とす。剥き出しになった左の上半身にはあるはずのものが存在していなかった。
「あ、そんな……」
目を見張ったベルナルドの視線の先――ジャンの左の鎖骨の上には引き攣れたような傷痕が大きく遺されていた。そこにあったはずの刺青がないことに衝撃を受けるベルナルドの表情に、ジャンは満足そうに嗤う。
「ひでぇ傷だと思わねぇ? これ、食い千切られたんだぜ? 頭のマトモな人間のやることじゃねぇよなぁ。とんだイカレ野郎がいたもんだぜ」
ジャンの当てこすりに、バクシーの顔がわずかに歪められる。その表情の変化は、彼に背を向けているジャンはもちろん、彼と向かい合っているベルナルドにも、そしてベルナルドの背後でひっそりと気配を消して佇んでいるジュリオにさえも気づかれることはなかったが。
「スミ食い千切られて、レイプされて、それなのに死ぬほど興奮して射精しちまって。そんな身体にされちまってさぁ。それもこれも、全部。あんたが――お前らが、俺を見捨てて置き去りにしていっちまったせいで、なぁ」
「…………すま、ない…………すまない、ジャン…………」
ジャンに責め立てられ、ぼろぼろと涙を零すベルナルドの表情が苦し気に歪むほどに、己の性器を扱くジャンの手の動きは速くなっていく。
「あ、はァ、ッ……んッ……なぁ、ベル、ナルド……ダーリン」
興奮と快感を隠さない、どろりとした甘ったるさを感じさせる口調でベルナルドに呼びかけて。ジャンは唇を笑みの形に撓める。魅入られたように瞬きすらできないベルナルドの、涙で歪んだ視界の中で。
「もっと、もっと。苦しんで、みせてくれよ、俺のためにさぁ」
憎しみと愛しさを綯い交ぜにしたような金色の瞳がベルナルドの視線を――精神を絡め取ろうとする。
「ジャ、ン……」
縛られた椅子の上で、ベルナルドは。痛みに耐えるように、長い指を掌の中にぎゅぅと握り込んだ。