現在未完。雪原ENDからマジソンに時間遡行したジャンさんの話。

逆行ジャンさんの一人旅 - 1/8

29,002文字 / 約33分
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風が吹いた。そう思った次の瞬間、唐突に意識が途切れ宙を舞うような感覚に振り回されて己を取り戻す。こんな季節に竜巻でも起こったのかと混乱しながら地面を見下ろせば、雪の上、倒れ伏す一体の人影が飛び込んできた。見慣れた服を着たあの男は俺だ、と思った瞬間、ひどくこめかみが痛んだ。
雪上に倒れた男俺、の近くから伸びる足跡を辿っていくと、その先には雪の上を駆ける大柄な男バクシーの姿があった。上空から見下ろしているのだから表情など窺い知ることもできないはずなのに、どういうわけなのか怒りに引き歪んだバクシーの顔が俺の脳裡のヴィジョンに鮮明に映し出される。
怒りに燃えるバクシーが向かっていく先には、四人の人影があった。四人のうちの一人ジュリオの構えたライフルに、なるほど俺はあれでやられたのか、と。ごく自然に納得する。
そうか、俺は死んだのか。死んで、意識だけがこうして身体を抜け出て眼下の出来事を、木偶の坊よろしくただ見ていることしかできずにいる、と。そういうわけだ。
余りにも唐突に断ち切られたせいか、状況を理解しても今ひとつ実感が伴わない。悔しいだとか無念だとか、そんな感情は未だ遠くにある俺の視界の中で。
ジュリオがバクシーに狙いを定めるのが分かった。

やめてくれ!!」

思わず声を上げたが、身体を持たない俺の叫びは、誰の耳にも届くことはない。俺の叫びの代わりに空気を震わせたのは、鋭い銃声だった。俺のことは一発で仕留めたくせに、動いているせいなのかバクシーには上手く狙いを定められずにいるらしいジュリオ。その姿に胸を撫で下ろす暇もなく、今度は他の三人が拳銃を取り出すのを見て、俺は。

「やめろやめてくれ

どうしようもない人殺しのどヤクザだ。これまでにも散々、虫けらを殺すよりも容易く他人の命を奪ってきた男だ。殺された中には、殺されても文句を言えないような悪党もいれば、何の罪も犯していない善良な一般市民だっていたことだろう。馬鹿でスケベでろくでなしの人でなし。死んだとなれば悲しむ人間よりも安堵する人間の方が多いぐらいかもしれない。
それでも。俺にとっては誰よりも何よりも愛しくて可愛い、かけがえのない男なんだ。

「頼むからそいつを殺さないでくれ!!」

身体があったなら、喉から血が出ていたであろうと思えるほどの、あらん限りの力で絶叫し。だが、そんな俺の全力など現実には何の効力も発揮することはなく。虚しいほどに無力な俺の見下ろすその先で、幾つもの銃弾を受けたバクシーの身体が雪の上に力なく倒れていくのが、見えた。

「あ、あぁ

絶望に見開いた俺の視界の隅で、ジュリオが。何故か、持っていたライフルで自らの頭を撃ち抜くのが見えたが。俺は雪の上に倒れ伏したバクシーのでかい身体から視線を動かすことができなかった。
どうして俺はあいつを連れてきちまったんだ。どうして、マックスを追い出した時にバクシーのことも一緒に追い出さなかったんだ。手放すタイミングはあったはずなのに。何で、何で、何で

えっ!?」

流れ出る血で雪を赤く染めていくバクシーの身体。雪の上に転がったそのでかい図体の中心部で、不意に何かが光を放った。まるで閃光弾でも撃ち込まれたかのような光の奔流。だが、それに驚いているのは俺だけのようで、雪原に立ち尽くす三人の男たちはそんな光など見えていないかのように、ジュリオの遺体を囲んだまま身動ぎひとつしない。
金色の光の渦はどんどんと広がっていき、訳が分からないまま宙を漂う俺をやがて呑み込んで。
そして、俺は何も考えられなくなった。