露見したら身の破滅だと分かっていながら、バクシーと身体だけの関係を断ち切れずにいるカポジャンさんの話。

Invisible Boundary - 1/3

16,926文字 / 約19分
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二人きりの部屋の中。俺が腕を伸ばせばかろうじて指先が届くかどうかの距離相手の無駄に長い腕ならこっちの身体を余裕で掴めるんだろうがで俺たちは対峙していた。人前ではいつだって、猥褻な言葉を吐き出すことしか知らないようなその口を珍しく閉ざしている野郎と、無言のまま睨むように見つめ合う。互いの微かな呼吸音しか聞こえないような静かな空間。目の前の野郎がフゥ、と小さく吐き出した息の音がやけに大きく響いて感じられた。俺の身に触れることのないその吐息の温度など分かるはずもない。そもそも、たかが人間一人の呼吸ひとつで何が変わるはずもないというのに。何故か部屋の温度が上がったような気がして、ひどく息苦しくなった。
苦しさを追いやろうとするかのように瞬きを繰り返していると、不意に男が動きを見せた。長い脚を一歩進めるだけで、俺たちの間にあった距離をあっという間に吐息の触れ合うもんへと詰めちまう。俺のそれよりひと回り以上もデカい手がスッと頬へと伸びてきた。こういう関係になったばかりの頃は、その手の動きにいちいちビクついて身構えちまっていたもんだが。すっかりと慣れてしまった今はもう、身動ぎひとつすることなく凶器じみた鉤爪みたいな手を、その動きを受け入れちまう。

「ン

熱を持った掌が俺の頬を撫でるようになぞりながら後頭部へと回される。その動きに促されるみたいに仰向けになった俺の顔に、野郎の顔が上から覆いかぶさるみたいに降ってきて、乾いた熱い唇が俺のそれと重なった。こいつの唇乾燥してやがるな、と、そう思ったのはほんの一瞬のことで、すぐに熱く濡れた舌が感触を上書きしていく。まだ閉じたままだった俺の唇をこじ開けるみたいにして侵入してきた舌が、我が物顔で俺の口の中を荒らしやがる。

「ん、じゅる、じゅ、ずっ

冗談みたいな水音を立てながら暴れ回る舌に翻弄されて頭がクラクラしやがるのはいつものことだが、それが快感のためなのか酸欠のためなのかは未だに判断がつかない。

「ハハァドギィ、気持ちよさそーな顔でうっとりされるがままになってんじゃねぇぞォ」
「っるせェ、うっとりしてるわけじゃねぇ、っつの意識が、飛びかけてたんだよ!」
「んんんンー? 淫乱わんちゃんはキッスだけでイキかけて飛んじまいそうってかァ? さっすが、幹部どものキンタマ掴んで夢中にさせてるビッチは言うことが違うねェ。そいつがイタ公流のリップサァァァビースってやつなのけ? どうせお口でサービスしてくれるんなら、その可愛い舌で俺様のチンポをペロペロしてくれた方が嬉しいんだけどナァ、こっちはよぅ」
「ッ、こんの!」

キチガイ野郎が好き勝手言いやがって、と。反射的に頭に血が昇って罵りかけた俺は、だけど、その衝動をぐっと堪えて飲み下した。俺がどんな言葉で喚いてみせたところで、厚顔無恥を絵に描いてご丁寧に色まで塗ってあるようなこの野郎には何の効果もないどころか、むしろ悦ばせることになるだけだ。だからといって暴力に訴えてみたところで、ジュリオならまだしも俺じゃあっという間に返り討ちにされちまう。野郎にとっては俺なんざ、片腕一本で軽くあしらうことのできる容易い相手だろうことは、嫌ってぐらいにまったくもって本当に、うんざりするほどによく知っている。

ふぅ

俺は少しだけ俯くと、深く、深く息を吸い、少しずつゆっくりと吐き出す。身体の中を巡る酸素が脳へと辿り着き、灰色の細胞を活性化させてピンク色へと塗り替えていく。そうしてクリアになっていく思考の中で、この呼吸法ってやつを教えてくれた可愛い守護天使の顔を思い出して、俺は冷静さを取り戻し。

「ったく、ベラベラとうるせぇ野郎だな。ベッドの上で騒がしい男はモテないって相場が決まってんだぜ?」

野郎の顔面のすぐ下から上目遣いで覗き込むように見上げてニヤリ、笑いかけ。相手からは死角になっているはずの身体の陰で滑るように右腕を伸ばして、野郎の股間防刃の革パンツの中に収められている膨らみへと掌を這わせる。開いた掌には到底収まりきらないような、ずっしりと熱を持った重たい感触。

ッ!?」

俺のすぐ目の前にある、バクシーの太い頚。そこに浮き出ている喉仏が上下するのがはっきりと分かった。いつもニヤニヤとふざけた嗤いを浮かべている野郎の口許が、わずかに歪む。それを目にした俺はすっかりと気を良くして。掌の中で持ち重りする肉の塊をガマン汁を漏らしているのか、じっとりとした湿り気を帯びているように感じられるそいつを、掬いあげるように下から上へと撫で上げる。
それから、さっきから俺の目の前で忙しなく動いている野郎の喉仏にちゅぅ、と小さく吸いつくような軽いあくまでも、痕は残さない程度のキスをして。

「なぁ、お前が使うべきは口じゃなくてコッチなんじゃねぇの? もうこんなにガッチガチにしてるくせにああ、もしかしてこのままだとすぐに出ちまいそうだからおしゃべりで誤魔化してんのかよ?」

張り詰めてキツくなってるファスナーにかろうじて作った隙間に手を潜り込ませて空間を押し広げ。革パンツの中で探り当てた亀頭をたっぷり溢れたガマン汁で濡れてぬるつく尿道の割れ目を下着越しに指先でぬるぬると弄びながら。野郎の喉に触れたままの唇で囁きかけ、揶揄うように笑ってやると、バクシーの野郎はまるで獣みたいにグルルと喉を鳴らして唸り声を上げた。キチガイ野郎の獣性そのものが剥き出しになったような、空気を震わせるその響き。
そいつを耳にした俺が思わず身を竦ませちまった、その隙を、バクシーの野郎が見逃すはずもなく。

「う、わッ!?」

一瞬の隙を突かれた俺はベッドのマットレスの上に突き転がされていた。そのことを自覚するよりも先に、上からバクシーの巨躯が稲妻が落ちるみたいな勢いで圧し掛かってくる。野郎の重量で勢いよく沈んだマットレスが、元の姿に戻ろうとする反動で俺の背中を激しく突き上げた。揺れる視界の中に映り込んだ天井とそこに据え付けられた照明を、黒く大きな影が隠すみたいに遮って。
伸ばされた腕を跳ね除ける余裕なんてなかった。鉤爪みたいな手に掴まれたシャツから布の裂ける音が響いて、弾け飛んだボタンが幾つか宙を舞う。曝け出された胸元に触れる空気がひんやりと冷たい、と思った次の瞬間にはもう、灼けつくような感触に摩り替わっていた。

「イッッッッテぇぇぇ!!」
「グルルルルルルルゥ

バクシーの野郎は俺の鎖骨の上、組織のスミが刻まれている辺りに噛み付きやがった。これまでの人生で何度か経験したことがあるから分かる、頭の中が真っ赤に染まるような、皮膚が破れる寸前の痛み。胸元を見下ろしても野郎の頭で視界が遮られて何も見えやしないが、やけに長くてやたらと頑丈そうな、あの真っ白い犬歯が脳裡をよぎる。
その瞬間、ぶるり、と身体が震えた。怖いわけじゃ、ねぇ。決して認めたくはなかったし、野郎にも絶対に気づかれたくはないが、それは。

(クソ、キモチイイとか、思ってねぇったら、ねぇ!)

「痛ぇっつってんだろうがこのクソキチガイ!!」

叫びながら、握った拳を野郎の鳩尾にぶち込む。いきなりゲロ吐かれても面倒なんで多少は手加減したんだが、そんなもんは一切必要なかったんじゃないかと思うぐらいに手応えがなかった。むしろ、殴りつけたはずのこっちの手がちょっと痛いかもしれない。何だこいつ、腹に鉄板でも入れてやがるのか、とまじまじと見ちまったが、どこからどう見ても生身の皮膚しかそこにはなかった。

「ッハハ、悪ィ悪ィついついがっついちまったぜェ。俺ァ育ちが良くねぇからよぉ目の前に出された御馳走はすぐに食っちまわねぇと誰に盗られるか分かったもんじゃねぇからナァ」

言いながら、唾液をたっぷりと纏った舌で俺の鎖骨を宥めるみたいに舐め上げる。そんな風に言ってる野郎だが、これまでに何度か一緒に飯を食ったことのある俺は、こいつの食事風景がイメージに反してお行儀のいいものだと知っていた。ひと口ひと口はでっかいが、口いっぱいに詰め込むようなことはせず、口に入れたもんは丁寧に咀嚼してから飲み下す。カトラリーの扱いに迷うこともなさそうだった。
ふと、以前にこの部屋で俺が簡単な飯を作ってやった時の光景が蘇る。皿に残ったソースを付け合わせのパンで拭ったバクシーの指の背にソースがついているのが、向かい側に座った俺の目に映った。何の気なしにそれを指摘すると、野郎はそのまま口許に手を持っていき、長い舌を伸ばして自分の指をベロリと舐め上げた。その舌の動きがやけにいやらしく思えて、俺は

(スゲェ興奮しちまって、あん時はそのままキッチンで致したんだった、な

しょうもない記憶を蘇らせちまった俺は眩暈のするような心地で天井を見上げだけど、そのまま思い出に浸るような余裕をバクシーの野郎が与えてくれるはずもなかった。

「なぁにボケーッとしてやがんだよパッピィよぅ? テメェの方から散々煽っといていい度胸じゃねぇか。もしかして早くチンポ突っ込んでほしいのに焦らされて飽きてきちまったんけ? だったら、お望み通り今すぐぶち込んでやるぜぇ」

目にも止まらぬ速さで抜き取られた俺のベルトが床に叩きつけられる。その音がまだ鼓膜に残っている間に、下着とズボンを纏めて引き摺り下ろされて、俺の下半身はあっという間に剥き出しになっていた。無防備に曝け出されちまった尻に、熱い掌が貼りつくように触れたかと思うと、無造作に尻の肉をぐいっと引っ張られて狭間を割り開かれる。

「ッ、あ、ッ!?」

容赦なく捩じ込まれる指の感触。この圧迫感からすると一本じゃねぇ、多分、二本かもしかすると三本だ。想定以上の質量と圧迫感に全身が強張って悲鳴じみた声を漏らしちまった俺に頓着することなく、バクシーは突っ込んだ指を広げるように動かした。

「おぅおぅ、物欲しげに吸いついてきやがるぜェ。いきなり三本突っ込んでもこれだもんナァ、マフィアのカポのケツマンコは相っ変わらずどうしようもねぇ欲しがりサンだ、たまんねぇなぁオイ?」
「テメェこの野郎

やっぱり三本突っ込んでやがったかという呆れと、乱暴な真似をしやがってという腹立たしさと。それらが綯い交ぜになって恨みがましい声を上げた俺を、バクシーが実に小憎らしい表情で見下ろしてくる。

「何だよこの、慣らしてもねぇのにグズグズんなってるトロマンはよぅ。最初っから俺にやられるつもりで準備万端整えておいて、ナァに無理矢理レイプされてますゥみてぇなツラしてやがんだこのドスケベ淫乱わんころが」

そこに関しては一つも言い訳の余地がなかった俺は、沈黙するしかなかった。そんな俺を見て嘲るような笑みを浮かべ、バクシーはテメェのズボンを蹴り落してその辺に脱ぎ捨てる。股間ではとっくに臨戦態勢になって涎を垂らしている、棍棒みたいな男根がそそり立っていた。

「そんじゃ、そろそろお望みのモンをくれてやりますかァ」

会陰に触れる、熱くて硬くて濡れた感触。焼けた鉄塊でも宛がわれてんじゃないかって気分になる、バクシーの怒張。反射というか本能というか恐怖心めいたものに襲われて思わず腰を引きかけたが、太い腕にがっちりと太腿を抱え上げられているせいで逃げ場なんて猫の額ほどにも存在しなかった。

「あ、ぐッ!!」

まるで鈍器を突っ込まれたみたいな、圧力、としか形容しようのないものに直腸を押し開かれる。硬いもので内臓を押し上げられる感覚に息が詰まって、上げかけた悲鳴も途中で途切れた。だけどバクシーはそんな俺に一切躊躇することなく、一気に根元まであの、凶器じみた馬鹿でかいチンコを、だ突っ込んでくる。

「おいおい、締め過ぎだぜ。いっくら俺のチンポがだァい好きだからってよぅ、根元から食いちぎって持ってく気か? この欲しがりわんわんがよぅ」
「い、らね、ッ! !!」

無造作に腰を振っているように見えて、その実、正確に狙いを定めて俺の弱いところを抉るように突いてくる容赦のない腰遣いに、俺は憎まれ口を叩くこともできずに翻弄される。頭の中の神経を直に引っ掴まれて焼き鏝でも押し当てられてんじゃないかっていうような、痛みと紙一重の灼けつくような快感が腰から背中、首の後ろを通って後頭部へと駆け抜けていく。一度だけじゃねぇ、何度も、何度も、だ。そのたび、俺の口からは意図しない悲鳴じみた声が飛び出す。

「あ、あ、ッ!」
「おうおうおう、声にならねぇほどキモチイイってかぁ」
「ち、が、も、や、めっ」

否定も拒絶も、何一つまともな言葉にならない。頭の中は羞恥と屈辱に塗れてるっていうのに、貪欲な俺の身体は従順に快感を享受して激しく仰け反った。はだけたシャツから曝け出された裸の胸が、野郎の胸板とぴったりと密着する。どちらのものかも分からない汗で滑る、その感触さえも追い風になって俺を追い詰めていく。

「ナァ、中で出してくださいって、俺に種付けされて孕まされてぇって、言ってみろよ」

俺の後頭部を掌でグッと抱え寄せたキチガイ野郎の獣じみた吐息混じりの声。耳許を撫でていくその熱さに腰を震わせながら、必死に首を左右に振る。

「言えねぇんなら、ずーーーっとこのまま、だぜぇ?」
、は、てめ、こそッ」

俺の中を擦り上げるバクシーの雄が限界まで張り詰めて硬くなっているのが、感触で分かる。俺を煽る声も語尾がわずかに上擦っていて、野郎の余裕のなさを窺わせた。本当はもう今すぐにでも出したくってこっちを焦らしてるゆとりなんてねぇだろうに、と。言ってやりたかった言葉は声にはならなかったが、相手にはきっちりと伝わってはいたようで。

「チッ」

短い舌打ちのあと、バクシーは折り畳んだ俺の身体に全体重を乗せようとでもする勢いで実際に全力でそれをやられたら確実に俺は潰れる自信があるが圧し掛かってくる。それが何を意味するのかすぐに気づいた俺は。

「や、やだッ!!」

本気で抵抗を試みた、はずだったが、当然のことながらこの反則みたいな化物相手には何の意味もなかった。めりめり、という音が聞こえてきたと錯覚しそうになる勢いで身体の奥深くを拓かれて犯される。

「う、ぐぁッ」
「あー、あったけぇこの、オメェの一番奥のトコ、出し入れするたんびに俺様のチンポの先っぽを旨そうにじゅぶ、じゅぶってしゃぶってきやがってそれに合わせてオメェのチンポもどぷ、どぷって濁った涎漏らして悦んでんのが丸分かりでよぅマジ、ドスケベだよナァ」

口調は荒々しいくせに腰遣いはひどく慎重で、痛いとギリギリ紙一重なのにどうしたって快感でしかないその感覚が、俺を肉体的にも精神的にも追い込んでいく。そんな俺の様子を見極めるみたいに、獲物の隙を窺う蛇みたいな目つきでこちらを見下ろしていたバクシーは。

「オラ、イけ!!」
ッ!!」

奥深く、これ以上入らないと思うような場所まで挿入された状態で、かき回すように大きく腰をグラインドされて、俺は呆気なく達した。あまりにも強烈すぎる快感に痙攣する四肢を、上に乗っかったバクシーが全身で抑えつけてくるもんだから、芋虫みたいに無様にのたうつことしかできない。ケツの中でバクシーのチンコがビクンビクン言ってるのが分かる。あぁ、こいつもイッたのか、と、そんなことをぼんやり考えながら、俺は尾を引く射精感にしばし身を委ねた。

「ッハーーー。やっぱ最高だわ、オメェの身体」

長すぎる射精をようやく終えたらしいバクシーは、まだ快感の余韻を引きずったような声でねっとりと囁きかけてくる。火照った俺の肌の温度よりもなお熱いその呼気に、自分のケツの穴が収縮するのが分かった。このままだと多分やばいことになる、という、根拠のない確信に突き動かされて。

「う、れしくねぇってか、イッたんなら抜けよ
「なぁに言ってんだ、まだまだこっからだろ?」
「な、馬鹿、待て、って、俺、まだイッたばっか

射精した直後だというのに、一向に萎える気配のないチンコを俺のケツに突っ込んだままのバクシーが、ゆっくりと腰を揺する。達したばかりの身体には強すぎる刺激に俺は抗議の声を上げた。

「待てねぇナァ。俺はお行儀のいいイタ公のボンボンどもと違って、イイコじゃねぇからナァ」

そう言ってニタリと笑うキチガイ野郎の顔を見上げながら、俺は。もう二度と夜明けを見ることはないかもしれない、と。不安とも諦めともつかない感想を抱きつつ。
腹の奥から湧き上がってくる快感への期待に、胸を震わせて、いた。