窓辺で青紫の花が揺れていた。ひっそりと咲く小さく可憐な花。だけど、その鮮やかさで目を奪わずにはいられない。その花を、ジャンはじっと眺める。
「こういう花だったんだな……」
受け取った時には葉をつけただけの苗の姿だったその花の姿を、ジャンは今日初めて知ることになった。繊細で控えめな見た目。香りもほとんどしない。それなのに、弱々しさなど欠片も感じさせない凛とした佇まい。
独りでも。頼る仲間がいなくても。顔を上げ、前を向き、敵に立ち向かう。そういう男を思い出した。他の誰でもない、ジャンにこの花を寄越してきた男だ。
単身敵地に乗り込み、厳重な警備を掻い潜って相手方のボスの私室にまで侵入を果たしてみせる大胆不敵な男。そこまでしておきながら、やることは、誕生日のプレゼントとして花の苗を贈る、それだけ。
あの男が何を考えているかなど、自分に分かるはずもない。口先ではそう言ってみせるジャンだが、生憎と彼は他者の感情の機微に敏かった。
バクシーは決定的な言葉を口にしたことはない。いつだって冗談の範疇に収まるような、そういう言葉を選んで投げかけてくる。その事実にジャンは密かに安堵していた。そのはず、だった。
だが、今、目の前で花を開かせたリンドウの苗を見て。
「なん、で…………」
意図せず零れ落ちた言葉を追いかけるように動いたジャンの視線は、己の指先へと向けられる。鉢の縁にかけられたそれは、本来は白いはずだというのに。今は力が掛かって薄い紅色に染まっていた。そのことに気づいて、ジャンはゆっくりと手を放す。
喉元まで出かかっていた問い――何故贈り主はここにいないのか、というそれ――を、ジャンは口に出すことなく呑み下した。
(一緒に見たかった、なんてのは……)
瞼を伏せ、そっと息を吐き出す。きっとまた、男はジャンの許を訪れる。けれどそれは恐らく、あとひと月以上も先のことだった。その時にまだこの花が咲いているかどうかを、ジャンは知らない。自分の手で花を育てるなんて初めてのことなのだから当然だろう。
自分の手で美しく咲いたこの花を見せたいと思う。逢瀬のタイミングはいつも相手に委ねられていることをもどかしいと感じる。
いつだって、迷惑だとしか思っていなかったはずの相手の訪れを待ちきれない想いで、いる。
――それはもう、自分から彼に会いに行きたいということなのだ、と。
誰に指摘されることもなく、知っていた。
「ファンクーロ、クソッタレめ……」
呻くように小さく吐き捨て、右手で両の目を覆うように顔を抑えて、ジャンは天を仰ぐ。
意地でも下を見まいとするかのようなマフィアのカポを、青紫の小さな花が静かに見上げていた。