FFさんのお誕生日祝いに書いたお話。コニーアイランドでデートするバクジャンです。

コニーアイランドへ行こう - 3/5

12,623文字 / 約15分
   文字サイズ:

まずはボードウォークのネイサンズで昼飯代わりのホットドッグを買い、それを食い終わったところで腹ごなしに射的の腕を競い合う。とはいえ、この手の遊びにあまり馴染みがなかったらしいバクシーが相手では、勝負と呼べるほどの競り合いにもならなかった。結果は比べるまでもなく俺の余裕勝ち。「本物の銃が使えりゃぁナァ」なんてアホな負け惜しみを言いながらもバクシーの野郎は嬉しそうに笑っていた。
取れた景品は通りすがりの親子連れの子供にくれてやった。恐らくはなけなしの小銭を必死にかき集めてやってきたのだろう、俺がまだ母親と暮らしていた時代の遠い記憶が微かに蘇ってくるような、貧しい身なりの母子だった。その子供の視線が俺の持つ景品にガキ向けの玩具にじっと向けられていることに気づいたのは、バクシーの方が先だった。
射的の代金は25セント。コースターや観覧車が15セントで乗れることを考えると、此処では贅沢な部類の娯楽だろう。どうやらそのことを理解しているらしいその子供が、羨ましげな表情で指を咥えながらも、母親に我儘を言わないように我慢しているのが目に見えて分かっちまって。
まずは母親に声をかけてから、子供に玩具を手渡して戻ってきた俺を見つめるバクシーの目は、ひどく優しげに細められていた。それが気に食わなくて、俺は無言でまた奴のケツを引っ叩く。「ナンデェ!?」という素っ頓狂な悲鳴を耳にして、少しだけ溜飲が下がった。
その後いくつかのアトラクションを冷やかしてから、いよいよ約束のローラーコースタールナ・パークのサンダーボルトに乗った俺たちは、あの時のマックスのトラックとどちらが刺激的であるかを批評し合う。そもそもがレールの上を走るだけのコースターと、ブレーキがぶっ壊れた上にタイヤが破裂してコントロールもままならない暴走車では、スリルという点においては比べるべくもない。そうなると、車では走行できないような勾配の設けられたコースターのエンターテインメント性が重要になってくるわけだが。

「急降下は確かにスゲェけどよぅ、ぶっちゃけ六〇マイルってそこまで大したスピードじゃねぇし。何より安全が確保されてるっつー時点で刺激が足りねぇわな」
「アドレナリンジャンキーだからな、テメェは」
「ンモー、そういうんじゃねぇってヴァ」

口では否定していやがるが、コンクリのビルに突っ込んでいくトラックの荷台から飛び降りる瞬間、お前の口から飛び出した「こえええーーー!」という叫びが喜色に満ちていたことを俺は忘れてねぇぞ。
という思いを込めてバクシーのツラをじろりと眺めやると、何を思ったのか、俺の視線を受け止めた野郎の表情が目つきがいきなり、とろりと溶けたように甘く、それでいて獰猛さを感じさせるような、そんな色になる。それは真っ昼間の人前では見せちゃならねぇ類いのベッドの上に横たえた獲物へと向ける雄のそれで。

(バカ、人前で何つー顔しやがる!!)

だが、狼狽えまくっている俺の内心なんてお構いなしに、ヘチマ野郎は情欲を剥き出したようなその銀の双眸で俺の目をじっと見つめながら。

「今の俺にとっちゃ、よぅ。オメェより刺激的なモンなんてねぇんだわ、ジャンよぅ」
「分かった。いや、分かんねぇけど、とにかく、分かったからその目つきをやめろ。今すぐその顔どっかに隠せ。人目に触れさせんじゃ、ねぇ」
「エェー!? そんな、俺の顔を猥褻物みてぇに言ってくれるなってェ」
「みたい、じゃねぇ、猥褻物そのものだよ! こっち見んな!」

自分に注がれる熱っぽい視線から逃れるようにバクシーに背を向けて歩き出す。さっき気づかないフリをして鎮めたはずの腹の奥の熱が再び疼き出したのが嫌でも分かっちまった。

(カッツォ、こんな人前で、あんな、セックスする時と同じ目、しやがってこの野郎馬鹿野郎)

頭の中にバクシーへの罵り文句を並べ立てながら、野郎が投げかけてくる言葉を全部右から左へと素通りさせて何処へともなく足を進めていると、隣を歩くバクシーの気配が不意に変わった。

「なぁ、ジャンすまねぇ。謝るから機嫌直してくれよ。いや、怒ったままでかまわねぇから、無視はしねぇでくれ。せっかく二人で過ごせるんだから、よぅ」

しおらしい口調でそんなことを言ってくるバクシーのツラはひどくしょんぼりとしていて。岩みたいな筋肉に覆われている電柱みたいな長身と内面のヤバさが隠し果せない程凶悪なご面相、そんな見た目の野郎がチラチラと上目遣いに俺の方を窺い見てくる。他人が見れば気色悪いとしか感じないんだろうその姿が、俺にとっては世界で一番愛しくて可哀想で、可愛い。
いつだって俺の良心を刺激してやまない、野郎のその子供じみた表情に、俺は今回もまた敗北を宣言する羽目になる。

俺も大人げなかった。つーか人前でああいう顔すんなよお前のそんなツラ、他の人間に見せたくねぇんだ。分かれ」
「えジャン、それってよぅ」
「その先を口にしたら、俺は今すぐロックウェルに帰って二度と此処には来ねぇ」
「ワカッタ オレ ナニモイワナイ」
「どこの火星人だよテメェは!」

くだらないことを言い合ってゲラゲラ笑って。そうして気を取り直した俺は、このパークのメインの一つ、ワンダー・ホイールに乗ろうと提案することにした。何ていうか、俺なりの仲直りと謝罪を兼ねた申し出、というやつだ。

「そろそろ観覧車に乗ってみっか? 夜景も悪くねぇんだが、この時間帯なら遠くまで見渡せて気持ちがいいぜ」
「ウッホゥ、待ってましたァ!」

思った通り、此処に着いた当初の約束を忘れていなかったんだろう、バクシーが目を輝かせて応諾の声を上げる。心の底からはしゃいでるのが伝わってくるような笑顔に、俺は胸の奥底を擽られてるみたいなむず痒さを覚えたが、それは決して居心地が悪いとか不快だとか、そんなんじゃなくって。

(ああ、どうしたって、この野郎が可愛くって仕方ねぇんだな、俺は)

俺は野郎の、束ねた鞭を捻ったような筋肉がみっしりと詰まった野太い腕に自分の手を伸ばし、手首と肘の中間ぐらいの位置を握るように掴んで。

「観覧車に乗るならディノズだな。行こうぜ」
!! おう!」

飼犬のリードを引っ張る飼主よろしく、掴んだ腕を軽く引いて歩き出した俺に、弾む声と足取りでバクシーがついてくる。手を繋ぐという形じゃなくても、俺に触れられているだけで嬉しいと、野郎の全身が伝えてくるのが分かっちまって。どうしたって気恥ずかしさが込み上げてきちまうが、それでも掴んだこの腕を放そうという気には、なれなかった。