FFさんのお誕生日祝いに書いたお話。コニーアイランドでデートするバクジャンです。

コニーアイランドへ行こう - 1/5

12,623文字 / 約15分
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コニーアイランドに関しては、大恐慌の後の不況のせいで一時的に廃れて寂れていたという情報もあったのですが、どうしても賑やかな遊園地でデートするバクジャンを書きたかったので目を瞑っていただきたい!

「ハァ? 休暇って何の話だ、ヴァルター?」

久々にバクシーとコンビを組んでフィラデルフィアでいくつかの仕事をこなした、その後のことだ。任務完了の報告を兼ねた定時連絡を入れた俺に告げられたのは、三日間の休暇のお知らせだった。
上司が働き詰めだと下の人間がやりづらいからお前たち二人もたまにはまとまった休暇を取れ。というイーサン親父からの命令だと聞かされた俺の脳裡には疑問しか浮かばなかった。
他人への気遣いなんざ母親の腹の中に落っことしてきちまった、みてぇなあのオッサンが、そんな風に部下たちを思いやるようなことを果たして口にするものだろうか。いや、ねぇだろう。だが、確かに親父がそう言っていたのだと主張するヴァルター相手にそれ以上何を言い募ることもできず、俺は狐に摘ままれたような心地で電話を切った。
受話器から手を放して背後を振り返った俺の視界に映り込んだのは、期待にキラキラと目を輝かせながらこちらを見つめている恋人のマヌケ面だった。カサブランカにいる時なら、横で聞いてるバクシーにも伝わるように電話の向こうにいる相手の言葉を復唱してやってるところだが。今回の通話ではそういった手間は一切省いてたんで、野郎の耳に入っていたのは俺の受け答えだけ。やり取りの詳細な内容なんて分からねぇはずだ。
それなのに、何もかもを弁えていると言わんばかりの、野郎のそのツラを見た俺は、全てを悟る。
親父が急にボスとしての自覚に目覚めた、なんてことはやはりあるはずもなく。全ては目の前のこのヘチマ野郎が仕込んだことだったのだ、と。半ば確信めいた思いを抱きながら睨みつけた俺の胡乱げな視線など意にも介さず、バクシーは満面に笑みを湛えながらでっかい口を開いた。

「な、な、二人揃っての休暇に、順調なシノギであったけぇフトコロ。こりゃもう行くしかねぇべ?」
「行くって何処へだよ、このカボチャ野郎」
「時間も金もある恋人たちが行くとこっつったら、アレだるぉ。コニーアイランド!」
「ハァァァァァ? コニーアイランドって、あの?」
「そのコニーアイランドだべ。他にあんのけ?」
「まぁ、ねぇよな多分」

コニーアイランドといえばニューヨークはブルックリンの南端にある、ビーチリゾートだ。公共交通機関が未発達だった十九世紀には金持ち連中専用の高級リゾート地だったらしいが、二〇世紀に入ってニューヨーク地下鉄が開通した現在は、マンハッタンからわずか数セントの乗車賃で気軽に訪れることができるようになっている。結果、現代のコニーアイランドは、低所得者層にも手の届く価格設定の娯楽施設や飲食店が立ち並ぶ、お手軽な夢の地になったというわけだ。
水着の上に着込んだ洋服コースターに三回は乗れるだけの更衣室の使用料をわざわざ支払おうという貧乏人はまずいないのポケットにありったけのニッケル(5セント硬貨)と夢を詰め込んで。少ない手持ちでどれだけのアトラクションを楽しめるかやりくりを考えるのも醍醐味の一つだ。カネが尽きたら水着でビーチに転がって海を眺め退廃的で開放的な雰囲気に気分が盛り上がっちまって人目を忍んでアレコレしてる連中もいるとかいないとか。
確かにカップルがデートをする場所としては実に王道な選択肢には違いなかった。ただし、そのカップルがいい歳した野郎同士それも、何処に出しても恥ずかしい人殺しのギャングのコンビだという点を考慮に入れなければ、の話だが。

「連れてってやるって言ってくれたの、ちゃんと覚えてるじぇ?」
「そんなこと言ったな、そういや」
「すーげぇ長い溜めに一瞬不安になっちゃったけど思い出してもらえて何よりですワ」

あれはいつのことだったか。まだ俺がGDのスミを入れる前、デイヴとシカゴのカエル野郎に取っ捕まってた間抜け、もといイーサン親父を助け出そうと俺の主目的は、そのあとにあのオッサンを一発ぶん殴ってやることだったわけだがした俺たちは。今は無きGD本部ビルへと駆けつけ、その周辺を固めた木っ端ヤクザどもの群れに突っ込まんとするトラックの荷台の上に、いた。
飛び交う銃弾の雨の中、前輪が破け、ブレーキもイカレて猛スピードで突っ走ることしかできない、走る棺桶状態になった車体。そいつをコントロールしようと必死にハンドルを握るマックスの背後で、何とも緊張感のない歓声じみた叫びをバクシーが発した。

『コニーアイランドのジェットコースター、メじゃねえぞ! 乗ったことねえけど』
『ハッ! 今度連れてってやるよ! 生きてたら、な!!』

あの時といい、デイバンで俺が撃たれた時といい、そのクソッタレた街から二人で命からがら脱出した時といい。ロックウェルに帰ってからも、シカゴ野郎に襲撃されて追い詰められた挙げ句元GD本部ビルの崩落に巻き込まれたり、その他にも何だかんだと幾度も死線を潜り抜けては、その度生き延びてきた俺たちだが。

「その約束は、まだ果たしてなかったか」

ポツリ、口から自然と零れ落ちた俺の言葉を耳にしたバクシーが、一段と嬉しそうなツラになる。
実際は『約束』なんて、そんなご大層なもんじゃない。その場のノリで口にしただけの、ただの軽口の応酬に過ぎない。そんなことは俺もバクシーも分かっちゃいた。だけど、あの切羽詰まった状況でのくだらないやり取りをお互いに忘れることなく覚えていた、ということが肝心だった。

「行くか、コニーアイランド」
「やったー! ママー、おやつは何セント分までオッケーですかァ」
「好きなだけ買えよ、この、ヘチマ野郎」
「やったじぇ、太っ腹なママ大好きー」

人目も憚らずお気づきだろうか、つい今しがた定時連絡の電話を済ませたばかりの俺たちがいる此処は、公衆電話の置かれている往来である。時刻は早朝、通りを行き交う出勤途中と思しきカタギさんたちの視線が、不自然なくらいに俺たちを避けているように感じられる理由は、こちらがヤクザ者だとひと目で知れる風体をしているからだと信じたい抱きついてきた電柱野郎が、そのまま調子に乗ってキスしようとしてくるのを、鋼板でも入れてんのかって硬さの鳩尾に肘を突っ込んで押し退けて。

「あぁん俺のラヴァーズときたら相変わらずつれねぇ。でもそんなとこも好き」
「アホか。そうと決まったらとっとと移動しようぜ」
「イエス、ボス!」

尻尾を振ってついてくる駄犬を後ろに従えて、俺はフィラデルフィアの駅を目指して歩き始めた。