無印世界線でのジャンさんとバクシーのお話。

Lemon - 3/5

16,629文字 / 約19分
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ロックウェルのギャング

手触りのいい金色の髪の毛に指を絡めるようにしてジャンの後頭部を支えると、蜂蜜色の瞳が熱っぽい光を浮かべてバクシーを見つめ返してくる。薄っすらと開いた唇に誘われるように自分のそれを近づけると、ほんの数秒すらも待ちきれないと言わんばかりにジャンの方からもバクシーに唇を寄せた。唇が触れ合った瞬間、バクシーの腰から項にかけて電流のような痺れが駆け抜ける。そこからはもう、無我夢中になってジャンの唇をひたすらに貪った。

「ジャン、ジャンずるじゅジャ、ぁん
「ん、ふ、ぁバクシぃ

夢中になってキスしているバクシーの瞳を見つめ返すジャンの目に、ふと悪戯っぽい光が浮かぶ。それに気づいたバクシーが理由を問うよりも先に、ジャンの手がバクシーの股間をそこで張り詰めていた勃起をやんわりと掌でさするように撫で回した。

「ったく、すーぐこの馬鹿チンポおっ勃てやがって、このカボチャ野郎」
「だって、だってよぅジャンがエロくて可愛いから」
「可愛いとか言ってんじゃねぇ、このヘチマ野郎ほら、お前の馬鹿チンポが今どうなってんのか見せてみろよ」

ちゃんと見せられたらしゃぶってやるから、と囁くジャンの目が熱でどろりと蕩けたようになっているのを見たバクシーは。発情しきっているジャンの様子にごくりと唾を飲み込んでその姿だけで自分の方がうっかり達してしまいそうな気分になって慌てて固く目を閉じる。そうして興奮をやり過ごしてから再び目を開けた彼の視界に映り込むのは。

◇ ◇ ◇

夢かよ。知ってたわ、クソッタレがァ

隠れ家の見慣れた天井を見上げながら呻くように呪いの言葉を吐くと、バクシーはベッドの上でのそりと身体を起こした。脳裡に思い起こすのは、たった今夢に出てきたばかりの恋人の姿ではなく、先日デイバンの街で出会ったCR:5のカポの姿だった。
どうやら自分は己の記憶と異なる時空に来てしまったようだ、と。自分の身に起こった出来事を理解した直後にバクシーが考えたのは、ジャンも同じ目に遭っているのではないか、ということだった。あの雪原で意識を失って、目が覚めたら何故かCR:5の二代目カポになっている。そんな訳の分からない状況に置かれてしまったジャンは、途方に暮れているのではないか。噂では身辺をガチガチに警護されているらしいジャンは、自分から動くことが叶わずバクシーが迎えに来るのを待っているのではないか。
そんな期待に縋るようにしてデイバンまで足を運んだバクシーだったが。自分の姿を見るなり即座に逃げ出したジャンの後姿を見て、それが己の願望に過ぎないという現実を突きつけられることになった。それでも諦め悪く追い縋るバクシーに向けられたのは、仇を見る目で自分を睨み返してくるジャンの、憎しみと嫌悪に満ちた視線だった。

「そりゃ、そうだわなぁ

バクシー自身にCR:5との抗争の記憶は一切ないが、ジャンに対して特別な感情を抱いていなかった頃の自分の振る舞いなど容易に想像がつく。恐らくはジャンを含めた幹部全員を殺すつもりで仕掛けただろうし、精神的に追い詰めるような卑怯な手段も躊躇いなく使用しただろう。
眇めた目で汚物でも見るような視線を向けてくるジャンは、バクシーがついぞ見たこともないような身なりをしていた。ジャンの身体に合わせて作られたことがはっきりと分かる上質なワイシャツにベストとスラックス。いつもだらしなく緩めてぶら下げられていたネクタイはきっちりと喉元で結ばれている。ピカピカに磨かれて曇りひとつ見当たらなさそうな黒い革靴。セットされていることが分かる髪の毛はバクシーの記憶よりも数段手触りが良さそうに艶めいていて。
どこもかしこも幹部たちの手垢に塗れ、大事にされていることが分かる、そんなジャンの姿に。それを当たり前のこととして受け止め、彼らの愛情を疑うことなく享受しているらしいジャンの様子に。バクシーにとってCR:5の幹部たちは、ジャンを殺した憎い仇でしかないというのに。今バクシーの目の前に立っている男にとって彼らは、自分を慈しみ護ってくれる頼れる存在なのだ、ということが痛いほどに感じられて。

もう、どこにもいねぇんだな

そんな言葉がバクシーの胸の裡に浮かんできて、バクシーは自分が恋人を完全に喪ってしまったことをようやく理解した。自分の愛したジャンは、自分を愛してくれたジャンは、もうこの世界のどこにもいなくなってしまったのだ、と。

「クソァ

あの時の喪失感を思い出して自分の胸に手を当てたバクシーは低い唸り声を上げて唇を噛み締める。じっと虚空を睨みながら、もしも立場が逆転していたら記憶を残しているのが自分ではなくジャンの方だったならどうなっていただろうか、と考えて。
ジャンと過ごした日々の記憶を持たないバクシー・クリステンセンは、チャンスがあればジャンを本気で殺そうとするだろう。場合によってはいつかのようにレイプすることもあるかもしれない。そんなバクシーの姿に、ジャンが傷つかないわけがない。自分の恋人だった男とは別人なのだと理解していたとしても否、だからこそ、ジャンは苦しむ苦しんでくれる、ことだろう。
そんな風に想像を巡らせたバクシーは、諦めたようなため息をひとつついて。

俺で、良かった」

心からそう、呟いた。