こちらの絵に滾って書いた。雪原ENDから時間遡行したバクシーが〝脱獄=死〟と考えて、ムショ内にジャンさんを引き止めようと身体張って頑張る話。

イチャコラまったりムショEND - 2/6

20,848文字 / 約24分
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〝事〟が起こったのは、今から遡ること一ヶ月くらい前になるだろうか。食堂を占拠していたあの連中。囚人という立場でありながらこのマジソン刑務所の中を我が物顔で歩き回り、俺たちを見下して踏みにじることに余念のなかったGDのクソッタレども。嗜好品どころかご禁制の酒まで手に入れて好き放題に振る舞っていた、ボスゴリラとその取り巻きたち。その連中が一人残らず殺された。現場となった食堂は血の海で無残に引き裂かれたギャングどもと巻き添えを食った看守の死骸があちらこちらに転がる中、王様気取りのボスゴリラの遺骸はひときわ凄惨を極める有様だったらしい。伝聞形なのは俺自身がその現場を直接目にしたわけじゃないからだ。連中の存在が気に食わなかったのは確かだが、だからといって奴らの悲惨な死に様を目の当たりにして喜びを感じるような歪んだ性癖を持ち合わせているわけでもない身としては、そんなものを目に入れずに済んで幸いだった。
目撃者が見当たらないせいで犯人は不明ということになっているが、容疑者の候補ならば名前が挙がっているらしい、というのは俺たち囚人連中の間でもそれとなく知れている。その事件が起こった日に、このマジソン刑務所から姿を晦ませた脱獄した連中がいるからだ。連中、と言うからには当然一人ではない。恐らくは十余人程度いたんだろうと思われるそいつらは、大別すると二つのグループに分かれていた。
一つは、殺された連中と同じようにGDの刺青を入れてはいたが、ボスゴリラの勢力には与していなかったむしろ、連中からは蔑まれ馬鹿にされていた節のあるギャングども。俺の目算では、こいつらが犯人でほぼ確定だろうと考えている。組織はデカくなるほどに一枚岩ってわけにはいかなくなるものだ。容疑者の第一候補としては順当と言えるだろう。ボスゴリラとは敵対する派閥に属するその連中が手を下した、要は内輪もめの一種なんじゃないかって話だ。
今にして思うと、ボスゴリラゴンザレス、だったかの野郎は自分が殺される可能性があると分かってたんだろう。だから独房ではなく食堂を占拠してバリケードを築き上げ、常に周囲を手下どもに固めさせていたんじゃないだろうか。それでも結局はそいつらもろとも無惨にぶっ殺されちまったっていうんだから、襲った連中はよほどの手練れだったに違いない。
現場の様子を聞きかじったところによると明らかに銃器や刃物が使われた形跡があったようだが、ムショの中で殺傷能力の高いそれらのブツを手に入れるってのはある意味脱獄するのと同じくらい、またはそれ以上に難易度が高かったはずだ。連中にはそれを可能にするだけの頭があったってことだろう。
それに、武器さえあれば事は簡単だった、というわけでもないはずだ。どういう裏取引があったのかは結局分からずじまいだったが、この刑務所である程度自由に振舞うことのできていたゴンザレス一味はそれなりの武装をしていたはずだし、頭数だけで言えば襲った連中よりも有利だったはずだ。巻き添えを食らったっていう看守たちこちらは確実に拳銃やショットガンで武装していたはずだが、その人数も決して少なくはない。いなくなった囚人どもの人数から推計すると十人に満たない程度だろうと思われる集団が、それら全てをねじ伏せて押し通ったのであれば。それは、よく訓練された軍隊並みに統率が取れていたか。あるいは、並外れた戦闘能力のある個体が紛れ込んでいたか、だろう。
入手困難な武器を手に入れた上で、警戒していたはずの相手を確実に殺し、事を成した後は速やかに現場から逃げおおせる。それもただの殺人現場じゃない、高い塀と高圧電流に囲まれた刑務所から、だ。そんなことをやってのけた連中の目的がゴンザレス一味の殺害だけだったことに感謝すべきなのかもしれない、という気さえしてくる。
ちなみに、脱獄したもう一方のグループというのは、もう説明するまでもないだろうが、CR:5の幹部四人のことだ。あの日、夜の点呼が終わった後。周囲の房の連中がイビキをかきだしたタイミングを見計らって俺は行動を開始していた。〇時丁度に来るはずの巡回をやり過ごしてからの方がいいんじゃないか、まだ起きている奴がいて見咎められる危険性もあるかもしれない、という思いはあった。だが、何か嫌な予感に背中を押されるような心地がして、俺は事を急いだ。
強制労働のおかげで誰もが疲れきっていたせいだろうか、幸い誰にも見つかることなく四人全員を鉄格子の中から出すことに成功した俺は、連中を八番房へと案内して。そこを見張っていたゴンザレスの手下二人は、ジュリオが鮮やかに制圧しちまった。殺すべきか気絶させるに止めておくべきかを考えるよりも先にジュリオが行動したせいで殺す一択になっちまったが、その後にGDの脱獄囚もそこを通って逃げたらしいので、最終的な結果は変わらなかっただろう。看守たちの反応を見ているとそっちの殺しもゴンザレス殺しと同一犯の犯行だと認識されているようだった。
八番房の抜け穴の前で、シモン爺さんから手に入れた道具を懐中電灯と紐を俺に手渡されたベルナルドの表情は今も忘れられない。他の三人はまだ気づいていないみたいだったが、付き合いの長いベルナルドにはそれだけで俺の意図が伝わったようで。ムショ暮らしで少しやつれたように思える優男は、戸惑いを浮かべた表情で神経質そうに二、三度目をしばたたかせ。それから、不安そうな声で俺の名を呼んだ。

『ジャン、これは
『この穴は外に繋がってる。多分二〇分くらい歩けば外に出られる計算だ。この懐中電灯があれば先頭の奴の足元に不安はないと思う。後は全員でこの紐を握って、はぐれないようにしてくれ』
待て、ジャンカルロ。その言い方だと』
『ジャン、さん、は来ないつもり、ですか?』

ベルナルドの困惑に気づいていながら無視して話を進める俺の言葉の意味するところに俺の意図に二番目に気づいたのはルキーノだった。次いで、ジュリオが。見上げた二人の顔はライオンの双眸は激情に燃え上がり、イケメン坊やの両眼は不安そうに揺らめいていた。その隣で、アップルグリーンの瞳が食い入るように俺を見つめている。俺はそれらにへらりとした笑みを返して。

そうだ。俺は、行かねえ』
『ハァ!? おい、どういうこったよ!!』

一瞬大声を上げかけたイヴァンは、だが状況を思い出したのだろう、精一杯潜めた中にも不満を詰め込んだような声で、まるで叫んでいるみたいに囁いた。

『まぁ、俺にも色々と思うところがあって、今はちょっとここを脱け出すわけにはいかなくなっちまったのよ。けど、ジュリオの移送の話が出てきちまったからな。お前らの脱獄のチャンスは、今を逃せば二度と来ない』
『そ、れは俺のせい、で申し訳、ない、です
『ジャン、だがお前を一人残して、というのは
『俺一人だけだったらいくらでも脱ける手なんてあんのよ。知ってるでしょ、ダーリン』

そう言って茶目っ気たっぷりにウィンクをしてみせたが、ベルナルドの表情は晴れなかった。誤魔化されてはくれなかったかと残念に思う気持ちと同時に、そりゃそうだろうなぁとも思って可笑しくなる。一度に四人も脱獄者が出たとなれば、その反動で締め付けは厳しくなるのが必定だ。しかも脱獄したのがCR:5の幹部四人だとなれば、彼らと同じ組織に所属している上に過去に何度も脱獄した経歴を持つ俺が関与を疑われないはずがないのだ。それでも、その全てを加味して検討した上でなお俺の気持ちは揺らがないのだから、こいつらの方に諦めてもらうしかない。

『ホラ、いい加減行ってくれ。ここで暢気に問答してる時間はないぜ』
『ジャン、てめぇ、本気で来ないつもりなんかよ』

ずっと俺が気に入らねぇって顔して噛み付いてばかりいた癖に、ひどく心配そうな表情を見せるイヴァンの野郎に、おいおいキャラが変わってんぞ、と心の中で突っ込んで、俺は笑った。

『デイバンに戻ってほとぼりが冷めたらさ、いかした差し入れでもしてくれよ。ただし、落ち着くのにあんまり時間がかかるようだったらその差し入れを受け取る前に俺も外に出ちまってるかもしれねぇけど、な』
『本当に大丈夫、なんだな、ジャン
『ああ。だから安心して行ってくれよ』
信じるぞ、ジャンカルロ』
『決して、無茶だけはしないでくれジャン
『クソ、この借りはぜってぇ返すからな』
『どうか、ご無事で

四人の中では恐らく一番割り切りの上手いルキーノは、ベルナルドから懐中電灯と紐を受け取ると真っ先に穴の中へと姿を消した。俺の表情を探るように見つめてからため息を零し、ルキーノの後へと続いたベルナルドは、一気に十歳も歳を食っちまったみたいに見えて。少しばかり胸を痛めながら、俺は無言でその背中を見送った。それを追うイヴァンの不貞腐れたような口調と表情もこれでしばらく見納めかと思うと少し名残惜しいようなそうでもないような。しんがりになったジュリオは最後の最後まで、お気に入りのぬいぐるみを取り上げられたガキみたいな表情で何度も俺を振り返り。

『置いていかれるぞ俺もいつまでもここにはいられないんだ、行ってくれよ』

頼むから、という俺の言葉に弾かれるように、長身のイケメンは穴の中へと姿を消した。それを見届けて、俺は自分の房へと戻るべく踵を返し。自分の房に戻ったのは、体内時計の感覚からいくと〇時にはまだ一時間ぐらいの猶予がある、それぐらいの頃合いだったはずだ。脱獄した四人の房のベッドには一応人が寝転がっているように見える細工をしておいたが、果たしてそれで誤魔化されてくれるものだろうか。だが、例え気づかれたところで、その頃には四人はもう塀の外に出ちまっている。そこから急いで追いかけたところで、ベルナルドが手配したお迎えの車が四人を攫って立ち去っちまった後だ。
連中の脱獄とは全く無関係ですよって顔をして熟睡し、何食わぬ顔で目覚めるのが残された自分の役目だと割り切って、俺はベッドに潜り込んだ。
その後にあんな事件が起こって、〇時になる頃には巡回どころの騒ぎじゃなくなるなんてことも知らないまま、深い深い眠りに、落ちていた。